第四十四話 歓待
「歓待、ねぇ。まぁ、話は簡単でいいな。だが納得いかないのは、何で俺じゃなくて、ヘルマンなんだよ」
「スィン、お前は熱くなって話をややこしくしそうだからだ。ヘルマン、頼んだぞ」
「御意」
ヘルマンは腰に差していたサーベルを抜き放ち、血や脂で汚れていないか再度確認していた。
「相手はあの娘さんの兄君か……。あの包囲の中で指導者的立場だった」
「セーバー様は長老のお孫であり、いずれは森の主を継ぐお方。その方らが勝つことは万に一つもあるまい」
一本の樹の根もとに三人を連れてきた男が、口を挟んできた。
「セーバーと言うのか。しかも後継者。油断するなよ。ヘルマン」
「へ、おれだったら瞬殺だぜ」
「アレックス殿の期待に応えて見せましょう」
「時間だ。代表者は来い」
「頼むぞ」
ヘルマンはアレックスの前で敬礼をすると、案内役の男のあとについて行った。
「お前たちはこちらに来るのだ。仲間が切り刻まれるところを特等席で見せてやる」
喚声が森を震わせた。
円形状の広場の周囲に生えている木々の上は森の民で埋め尽くされていた。
「どこが平和の民だ。血の気に飢えている好戦的な奴らじゃないか」
「娯楽が少ないのかな。ヘルマン頼むよ」
「諸君! お待たせした! 無謀にも、我々の歓待を受ける挑戦者が現れた! その名はヘルマン=シュタイナー!」
喚声がひときわ大きくなる。大地は震え、木々は枝どころか幹さえも揺れ動工としていた。
「この挑戦者を叩き伏せるはわれらが英雄!」
司会者の言葉と同時、一瞬にして静けさが訪れた。
「歴戦の勇者にして導く者! セーバー=アーデルンカッツ!」
ヘルマンが登場した時以上の喚声で思わずアレックスもスィンも耳をふさいだ。
「本当に勝てるのか?」
「王子サマよ、あんたが信じなきゃ、誰が信じるんだ? 何見てなよ。クレイス王立兵学校を設立したことをあんたが誇りに思う日は今日さ」