あいさつ
一日遅れました
申し訳ありません
「後ろ手に縄で縛らて、ひざまずかされるあいさつってのは初めてだよ」
「うるさい、お前たちが何を考えているのかを長老様が確認するまではおとなしくしてもらう」
森の民たちがつきつけるやりに押されるがままに歩み進むと、ひときわ巨大な樹の前にたどりついた。
周りにある木々を従えるがごとく広がる枝葉は古木という印象を与えないみずみずしさに輝き、三人のみならず、その場にいる森の民すべてを包み込んでいた。
見上げる三人は気圧されるどころか、その中に飲み込まれてしまうことを望んだ。
「よく来たな、草の民よ」
「頭が高いぞ」
槍でつつかれ、声の主を確認する間もなく頭を下げざるを得なかった。
「畜生、スネイプはこうなることが分かって逃げたに違いねえ。今度会ったら覚えていろよ」
「静かにしろよ」
「その方らは、クレイスの民か?」
「そ、その通りです」
「目的地はウィードか」
「その通りです」
「印璽だな?」
「……っ!」
「なぜ、分かった? と言いたげだな。あの印璽はもとより、我々のもの。我々がその方らの初代王に与えたにすぎぬ」
「伝承では獅子に与えられたと」
「そういうことになっておるのか。草の民が争いを繰り返すから、一つにまとめるために我々が知恵と力を与えた証だというものを……。その方らの初代王はよほど森の民から力を与えてもらったと言いたくはなかったのであろう」
「も、申し訳ございませぬ」
「その方らを責めても詮無きこと。なぜ分かったかであったな。われらのものであるがゆえに、今どこにあるかは手に取るように分かるものよ」
「そ、それで、今どこに!」
「頭が高いと言っておろう!」
「くっ……!」
頭を上げようとしたアレックスは押さえつけられて、興奮を体で表現できない。
「ブラン村だ」
「森の出口、グラーリー峡谷の手前」
「意外と離されてなかったんだな」
「す、すぐに行かないと!」
「焦るな、草の民よ。動きは止まっておる。急ぐ気持ちは分かるが、伝統でな。我々の歓待を受けぬものを通すことはできぬよ」
「は?」
「あいさつの次は、歓待……何されることやら」