第四十二話 包囲
「まぁ、落ちつけよ。少し雰囲気がおかしいぜ」
スィンが慌てふためくアレックスをなだめながら、包囲する森の民をにらみつけた。
「わりぃが、おれたちはあんたらに危害を加えるつもりはねえ。ただ、通してくれればそれでいいのさ」
「そんな説得で、どうにかなるのか?」
「こういうのは馬鹿正直な方が吉なんだよ」
「何が危害は加えないだよ! ボクの服をびりびりにしたくせに!」
木の上から先ほどの娘が叫んだ。
「だけど怪我はさせてないだろ? お嬢さん。そのあと暴行を加える気もなかった。とても紳士的な対応をさせていただいたと自負しているがね」
「何言ってんだよ! お兄ちゃんやっつけてよ! ……いて!」
隣にいた長身の青年が、娘の頭に拳骨をひとつ加えると、木の下に飛び降りて三人の前に立ちふさがった。
「妹は頑固でね。君たちから辱めを受けたと言い張るのだが、おそらく『通してほしい』『通さない』の言い合いの結果だと推察するがいかがかね?」
「ま、まぁ、そんなところです」
「言い合いというより一方的……何するんだよ、ヘルマン」
「話をややこしくするな、スィン」
「妹の性格からすると、何が起こったかは想像がつく。気にしなくていい」
「それじゃぁ、僕たちを通してくれますか?」
「それとこれとは話が別だ」
「え?」
「他人の家の庭を通るのに家主にあいさつもないとは無礼千万だとは思わないかね。連れて行け!」
「なーんで、おれたち、背中に槍を突き付けられているのかなぁ?」