第三十七話 激突
剣戟の響きが廃村に満ちわたる。
照りつける太陽が、お互いの刃を照らす。
「将を射んとせばまず馬を射よ……スネイプを殺したかったら、あなたをはじめとする周りを削っていく方が良いと思ってね」
「それは正解かもしれないけど、一般人に手を出すのは傭兵としてどうかしら?」
次の一撃のあとリラが素早く後ろの下がって、間合いを開けた。
「一般人? あなた方が一般人と行動するなんて考えられないね。それに必要とあらば味方も殺していた死に神スネイプも同じ考えなのか?」
「はて? 私はスネイプじゃないからね。ただ言われたままに殺しはしてきたけど」
「その中に一般人もいたんだろう?」
「気にしたこともないわ」
「お互い、手が汚れているな」
「心も、ね!」
おしゃべりを断ち切るようにクルラが前に出て短刀を振り下ろす。その一撃もリラには届かずレイピアの前に遮られる。
「スィンと戦った時と同じだな。クルラと戦わせておいて、私に隙が出た瞬間を狙撃する。代わり映えのない戦い方なら私には通用しないぞ」
「心配ご無用、あの人はそんな戦い方しないわ」
再び剣戟の音が幾度も辺りに響き渡る。
「何故そういいきれる?」
「スィンの時と違って、今度は私が勝つもの」
リラの眉がぴくりと吊り上がり、再び大きく間合いを開けた。
「なん……だと?」
「だってそうでしょう? 私の方があなたより強いもの」
「ふん、スネイプが狙撃する隙を見せないように本気を出していないのだが、それを実力だと思っているのだとしたら見込み違いだぞ。それとも私に本気を出させて隙を作ろうというのなら、安い挑発だな」
「どう思おうとあなたの勝手。でもあなたが本気を出しても勝てない相手が目の前にいると言うことだけが確実なのよ」
「ほざけ、空の民。いざとなれば空に逃げようという肚のくせして」
「それがお望み?」
言うやいなや、クルラは翼を広げて地面から離れる。
「む? 本当に逃げる気か?」
「逃げ、ではないわね。でも私の土俵に先ずは上がっておいで」
リラがレイピアで突きにかかるが間に合わずクルラは上空高く舞い上がる。
「これを受け止めると良いわ」
そのまま上空で放物線を描く。赤い軌跡。
「それも挑発だな! 重力まで重ねた一撃などレイピアで受け止められようか!」
上空より落下、否、滑空してくるクルラの接近を、横によけて躱す。これでクルラは地面に激突する。そう、思っていた。
「鋭角反転!」
ところがクルラは地面に激突するすれすれで、方向転換し再び空へと舞い上がる。
「バケモノか? 奴は……上空の敵を討つ術はない。受け止められるような一撃ではない……とするならば」
クルラの先ほどの言葉が脳裏によぎる。
「なるほど、確かにあんたは強い。スネイプの腰巾着ではなかったようだ」
クルラの動きを見ながら、村の外へと向かう道へと駆け出す。
「逃げますの?」
ふいにマーナーに声をかけられて、仰天したが今はそれどころではなかった。
「ああ、クルラ対策を施してから再選を挑むよ。命拾いしたな一般人さん」