第三十六話 再登場
シュバインバルトの南端を沿うようにして東西に延びる南街道。比較的なだらかな平野部を通るため、今回の戦いでは真っ先にウィード軍が進軍し角突砦が陥落した。
「ウィード軍は角突砦に籠もって出てこない。メムルーク将軍が睨みを効かしているからだ。戦況が動く前にさっさと突破してブラン村に行くのが吉だ。そう、させてくれるならな……」
「あら? 妨害がありますの?」
「ない、と思えるほど楽観的じゃぁ傭兵はやっていけないぜ」
戦争で往来がすっかりと言って良いほど無くなった道を歩みながらもスネイプは警戒を怠らない。途中に散在する村々は巻き添えを恐れてもぬけの殻となっていた。
「こういう所こそ危ないのよね~野伏がいたり、伏兵がいたり」
クルラの言葉を待っていたかのようにスネイプはぴたりと歩みを止めた。それに合わせるようにクルラがスネイプの前で翼を広げる。
「正直な話、ここまでついてくるとは思わなかったぜ」
先を歩いていたマーナーが振り返るとクルラが短刀を抜き放って構えていた。
「何の……話ですか?」
「もちろん、こちらの話さ。出てこいよ。隠れているんだろ?」
スネイプの言葉と同時、白刃が空を裂く。マーナーが背後から振り下ろされる一閃を横に躱すと同時にクルラが前に出て、受け止めた。
「言わんこっちゃ無い。こんな風に巻き込まれるぜ?」
スネイプはマーナーに一言残して廃屋の扉に逃げ込んだ。
「あらあら、お仲間さんを一人殺すつもりだったけど。意外とすばしっこかったわね」
「どうせ奇襲するなら、私かスネイプを狙えば良かったんじゃないの? リラ=ビセートさん?」
クルラの短刀とリラのレイピアは未だ交差したままお互い次の一手を狙っていた。