第三十三話 賭け
日は高く、西の空を赤く染めるにはまだ早かった。
岩陰に隠れ暑さをしのぎながら、ヘルマンとスィンは座って向かい合っていた。
スィンは両こぶしを握りしめて宙に浮かしている。
「なぁ、あの二人は何をやっているんだ?」
アレックスがスネイプに耳元でささやく。
「ナンゴだろ……。両手に隠した貨幣の数を当てる賭博さ」
「右、四枚」
ヘルマンが宣言すると、スィンはゆっくりと右手を開ける。
「ち、ヘルマンの奴。相変わらず読みが良いな」
スィンは悪態をつきながら手のひらの上にある四枚の金貨をヘルマンに差し出した。
「君が単純すぎるのだ」
四枚の金貨を受け取ると、今度はヘルマンが両こぶしを握りしめた。
「持ち金が九枚もあると当てにくいな。右五枚!」
傍から見ているアレックスが再びスネイプに尋ねる。
「どういう意味だ?」
「ナンゴはお互いに金貨五枚ずつ始める。取った取られたを繰り返して増減があるが、今ヘルマンは九枚、スィンは一枚だ。ヘルマンは九枚を右手と左手に何枚ずつ振り分けるか、九通りあるからスィンは当てるのが難しいのさ」
「残念だったな。スィン。右と左が逆だったら良かったのだが」
ヘルマンは両手を広げると、右手に四枚、左手に五枚隠していた。
「かー。やばいな。俺残り一枚なんだよな」
頭を抱えるスィンを見てクルラがひょっこり姿を現す。
「あら、スィンってば懐かしい遊びやっているじゃない。子どもの頃は良くしたものだわ。小石を使ってだけどね。『窮地のスィン』の実力は落ちてないのかしら?」
「窮地のスィン?」
「そ、残り一枚になってからが強いのよね。不思議だわ」
「さぁ、ヘルマン! 右か左か当てて見せろ」
「さっき、スィンは九通りから選んだが、ヘルマンは二通りからでいいんだろ? ヘルマンが有利なはずだが」
「左」
「残念。右だ」
スィンは右手を開いて中の金貨を見せた。
「む……」
「確かに一回しのいだが、このあと当ててヘルマンから金貨を取らないと……」
「左七枚!」
ヘルマンの眉が吊り上がる。果たしてヘルマンの左手には金貨が七枚入っていた。
「な!? スィンが当てた」
このあと一気にたたみかけるようにスィンが百発百中かのように当て続けて、勝利を収めた。
「驚いた。何故残り一枚から逆転できるんだ?」
「まぁ、ここの実力って奴よ」
スィンは頭を指で叩いて見せた。
「そろそろお遊びは終わりかしら? 日も傾いてきましたから準備をしなければいけませんわ」
「もうそんな時間かよ。ヘルマン。続きは明日な」
「お断りしたいものだな。君のために給料を稼いでいるわけではないのだから」
「そうだな。クニのおっかさんもお腹が大きいからな」
「「「え???」」」