第三十一話 食事
「うーん。何とも言えない微妙な匂いだな」
「食べたくなかったら無理しなくても良いのよ、スィン」
目の前には輪切りにされたミミズの肉がたき火の上でジュウジュウと焼かれていた。
「いや、食べるよ。戦場じゃぁ、これ以上のものを食べたこともあるもんだ」
「とにかくお腹がすいた。早く食べさせてくれよ」
「焼けているこれを食べて良いわよ」
「おー、ありがたい。頂きます！ うぐ！」
口に含んだ瞬間、じわりと微妙な苦みを伴った汁が広がってきた。
「なんだこれ！」
「まぁ、食えない味じゃないな。もう少しコショウが欲しいか。ヘルマンもコショウいるか？」
「え－？ 次の町でも調達できるとは限らないのよ。もう少し大事に使ってよ」
「なぁ、ちょっと」
「どうせべーラングに一度戻るんだろ。その時に調達してくればいいじゃないか」
「まだあるから良いだろ、って考えを辞めて、って言っているのよ」
「おーい、君達はこれを最後まで食べるっていうのかい？」
「スネイプお前もコショウ居るだろ？」
「いや、俺はこれくらいで良い」
「某も充分だ」
「私もよろしいですわ」
「僕の話を聞いて欲しいな」
「うんうん、苦労して獲ってきただけあってなかなかの味だわ」
「空の民の味覚が僕らと違うのは分かったよ。だからさー」
「え、もう一切れ欲しいの？ 良いわよ」
「違うよ！ 逆だよ。こんなの食べられないよ！」
「さっきも言ったとおり、食べたくなかったら無理しなくても良いわよ」
「だったら、何か他の物はないのか？」
「ないわよ」
「そんなことはないだろ？ べーラングで何か食材を買っていたじゃないか？」
「あれは調味料よ。食材は原則現地調達よ」
「君に食事係を任せたのは間違いだったよ。僕はお……むぐうむぐぅ！」
スィンが素早くアレックスの口を塞いだ。
「まぁまぁ、アレックス君。お腹がすいて気が立っているのは分かるが落ち着きたまえ。ここで叫んでは余計にお腹がすくだけだ。我慢してこれを食べるか、お腹がすいて次の食事を待つかのどちらかを選ぶと良いと思うよ」
「スィン……。口調が変わって気持ち悪いわよ」
「ふん！ こんなまずい飯を食べるくらいならお腹がすいたままの方がマシだ！ 僕はもう寝るぞ！」
「そんなにまずいかなぁ……」
「まぁまぁ、彼の今までの人生で食べてきたものが俺達とは違うってことだ。気にするなよ」
「スィンに慰められると余計落ち込むわ」
そんなやりとりを巨岩の影で見つめるものが一つ。
