第二十九話 収獲
「遅いな……。どこまで行っているんだ?」
「なぁ、食事はまだか?」
「少し様子を見に行った方が良いんじゃないか?」
「行きたくてもどこに行ったかが分からない」
手負いでありながら、いや、手負いだからこそかワームの締め付けはかなり強力な物でクルラは少しも身動きをとることができなかった。
幸いにして首は絞められていないが、腕や胸の骨がぎしぎしと悲鳴を上げ始めている。
「こんの……朝食の……くせして……ぐぐぅ!」
右手に未だ持っている短剣をもう一度強く握りしめる。痛みに負けてこれを落とせば抵抗する術を失ってしまう。
「食べられる立場でありながら……私を食べよう何て……百年早いわよ!」
短剣をもう一度ワームの身体に突き立てた。吹き出す体液が身体に降りかかり、焼き付く刺激が皮膚だけでなく、目・口・鼻にも襲いかかるが、命には替えられない。
「あ-!らー!」
突き立てた短剣を横に動かし、その身を切り裂いていく、締め付けと体液による刺激に耐えられなくなるか、ワームが絶命するか我慢比べのような争いだった。
「さすがに何かあったか」
スネイプの忍耐も限界に達しかけた瞬間だった。
「おい、何か赤い影が見えるぜ」
スィンの言葉を皮切りに皆が一斉に注目する。
「あら、ゴレアスサンドワームですわ」
ざわつきと共に皆が身構える。
「ワームが空を飛ぶ、何て知りませんでしたわ」
「みんな、お待たせー。朝食を持ってきたよー」
影が近づくとワームをぶら下げてクルラがふらふらと飛んでいる姿がはっきりと見えた。
「ふぅ、やれやれだな」
「スネイプ、マント貸してくれる?」
ワームを大地に放り投げるとすぐさま、所々服は焼けただれて肌が露出しているのを両手で覆い隠しながらクルラは上目遣いでお願いした。
「ほらよ。薬も塗っておけよ」
スネイプは無造作にマントを放り投げるとクルラは笑顔で受け取り身を包んだ。
「飯を食ったら、一度べーラングに戻って服を調達してくるか?」
「そうするわ。いつまでもスネイプのマントを借りていられないから」
「早くご飯ー」
「おーい、このミミズ勝手に捌いて良いか?」
「子供達がうるさいからお母さんは料理にかかるわ」
笑顔で敬礼するとクルラはワームの所へと向かった。