第二十五話 契約
「宿を予約しているからそこへ逃げよう」
クルラを除く四人は表通りを避けて裏路地を駆け抜けていた。
「三人ほど追っかけてきているよ」
屋根の上に登ったクルラが辺りを見回して、下の四人に告げた。
「ち、言い出しっぺが全員面倒見ろよ」
「今頃のされているんじゃないか? 僕はそう思うな」
「性格はあんな風だが、実力はある。ああいう連中に後れを取る奴じゃないんだな……。残念だが。仕方がない。クルラ! 頼む」
「え~、何でスィンのケツ拭かなきゃいけないのよ……。ったく」
クルラは翼を広げると追っ手の三人の前に降り立った。
「おーにさん。お探しの物は何ですか?」
「おい、あれ……あの女を匿った連中の一人じゃないか?」
「間違いねえ。空の民なんざ、そうそういねえからな」
クルラは困った表情で頬を少し掻いた。
「まったく目立つことはするもんじゃないよね-。スィン。いつかシメる」
「さぁ、お嬢さん。覚悟してあの女をどこにやったのか白状して貰おうか」
三人の男がにじり寄ってくると同時、翼を広げる。
「待て逃げるんじゃねえ!」
三人が同時に飛びかかるが、三人とも空を掴んだ。月光を背に赤い翼が広がる。
「おーにさん、こちら♪ 追っかけておいで」
クルラは宿とは反対方向に向かって飛び去っていった。
「二人とも心配する必要は無いさ。あいつらはああいうことに慣れている」
宿に到着すると、スネイプは酔いが回ってすっかり伸びているアレックスに水を差しだした。
「この坊やはともかく、二人とも平気そうね」
「狙撃手は酔ったら務まらないのさ」
「某は静かに飲むことを好む。ああいう場では飲まない」
「そう……。ひとまず礼を言うわね。あの連中ときたらビレーダーの町へ行かないなんて言い出すんですもの。つい口が後先考えずにね」
「へぇ、ビレーダーの町へ? 僕達と一緒だね」
冷たい水を飲んで落ち着いたアレックスが身を起こして女に問いかける。
「まぁ、案内役が居ないからどうしたものかと途方に暮れているところだけどね」
「あら、それはちょうど良ろしいわね。私はゴレアスステップの事はよく知っているけど、護衛が居ないとね……。ほら女の一人旅は何かと物騒でしょ?」
「なるほど、君が案内してくれるのか? 代わりに僕達が君の護衛をすればいいと。良いんじゃないか? スネイプ、どう思う?」
「チッ、二万五千が……。いや、問題ないだろう。本当に案内できるくらいに詳しいのならな」
「今何か言いかけなかったか?」
「気のせいさ」
「それは心配しなくても良ろしくてよ。物騒になる前は結構行き来していましたもの」
「それじゃぁ決まりだね。よろしく頼むよ……ええと」
「マーナーですわ。一つよろしくお願いいたしますわ」