第二十二話 晩餐
日が落ちる頃、五人は木造の料亭へと足を運んだ。
「ひゃっほー、久々にまっとうな食事だぜ。チーダー。チーダー食べるよな。みんなでチーダー食べようぜ」
足取り軽くスィンは店内へと入っていった。
四人が扉をくぐるとすでに店内は夕食と酒を求めている人々でごった返しになっていた。そんな中でもスィンが一角を占有して
「チーダー五人前! 肉肉野菜の比率で!」
等と若い女性の給仕係に注文完了していた。
「チーダーってそもそも何なのだ?」
「何だよ。アレックスは知らないのか? まぁ料理が来たら分かるよ」
「はい、お待たせしました。チーダーです」
注文を受けた給仕が五人の前に、円形の生地が山盛りに置いていく。
「え、これだけ?」
「ここからが本番だぜ」
続いて置かれるのは、ジュウジュウと焼けて湯気と共に匂いを辺りに広げる大量の腸詰め肉が盛られた皿、大量のレタスの上に、ゆで卵を刻んだもの、茹でたジャガイモをすりつぶしたもの、コーンにトマト、煮豆が載せられた皿が次々に並べられた。
「これは美味しそうだな!」
目を輝かせながらアレックスは鼻をひくつかせた。
「おっと、そのまま食べたらダメだぜ、アレックス。こうするんだ」
円形の生地を四つに折ってできた扇形を真ん中から開いて円錐状の筒を作り上げた。
「この、バスポラス麦をひいて粉にした物を水で練って焼いた生地の中に自分の食べたいものを入れて頬張るんだ」
ひょいひょいと、腸詰め肉を多めに入れて、アレックスに差し出した。
「お前が一番に食べな」
「良いのか?」
アレックスは辺りを見回すと、他の三人も未だ手を付けていなかった。
「身分を隠しているとはいえ、立場はわきまえているさ」
スネイプがアレックスの耳元でささやいた。
「そうか、遠慮無く頂こう」
腸詰め肉の乾いた避ける音が耳をくすぐる。口の中に広がる肉汁が舌を刺激していく、その香ばしい匂いは口の中からはなへと逆流していく。
「どうだ?」
「はふはふ、はらい……ごくん。美味い! ひーひー! 随分と胡椒がきいているな。辛いけど美味い!」
「だろ、よし、みんな食べようぜ」
スィンの言葉を合図に皆が一斉に生地を手に取る。
「僕も自分で作ってみよう。どうやるんだ? 教えてくれ」
「良いか、見てろよ」
スィンが生地を一枚手にとってアレックスに教示している横ではスネイプ達も手早く作っていた。
「はい、スネイプ。作って上げたよ」
「悪いな。クルラ、お前も俺が作った奴を食えよ」
「ちょっと、お前ら、俺がアレックスに教えている間にお互いに交換してんじゃねえよ。俺の分は? そうか、ヘルマンが作ってくれているよな」
ふとヘルマンに視線を向けると、彼は自分で作った物を頬張っている最中だった。
「おいおい、みんな冷てえな。譲り合いの精神はどこに行ったよ。孤児院で培ったあの心は」
「だから私はスネイプに、スネイプは私に譲り合っているじゃない」
「某は孤児院出身ではない」
「スィン、これで良いのか? 少し形が変なようだが」
「ああ、それじゃ、中身がこぼれ……あーあ……」
「む、どこが悪かったんだ」
「ええい、手間のかかる。だから俺の分は? 作らなくても良いからとって置けよ?」
「次、魚介類を頼むか……」
「私、イカが食べたい」
「追加注文しているってことは残ってねえのかよ! せめて肉頼めよ!」