第二十話 策略
「今の羽音はクルラのもの……だね。狙撃手が自ら自分の位置を知らせるようなヘマはしない。となると、今の羽音とは別の場所にスネイプは居るってことね」
「へぇ、そんなことまで分かるってか」
「あなたには分からないの? スネイプの幼なじみだという割には彼のことを何も知らないのね」
「は! そんなもの知ってどうするんだよ。分かるのはこの場所で俺がテメエを倒すってことだけだ!」
剣戟が再開される。より激しくなっていくスィンによる剣の舞。
その激しさが増せば増すほど、より冷たくなっていくリラによる剣の舞。
「おいおい! 熱い戦いをしようっていうのに、なんでそんな冷めた表情をしてんだ? もっと盛り上がろうぜ!」
「君には分からないのだろうね。今のクルラの羽音で逆にスネイプの位置が想像できた。あとは彼と私の間に君が居るように戦えば良いだけだ」
「あーん? それってつまるところ……」
スィンの動きが止まり、その眉がつり上がっていく。
「そう、スネイプは君が邪魔で狙撃できない……というわけだ。君の動きが大振りなのでより助かる」
「は! それは意味がない話だな。あの男は邪魔だと思ったらためらいはねえよ。俺を撃ってなおテメエを撃つ。そういう男だ」
右のかぎ爪で自分の肩を叩く。
「それが事実なら、既に君はこの世にいない。そうなっていないのには訳がある。君が撃たれている間に私は逃げおおせるからだ」
「なるほど、それじゃあ尚更俺がテメエを倒さなきゃいけねえな」
三度目、斬りかかろうとした瞬間に銃声が森に響き渡る。
「く! 何故だ? 奴が撃つ瞬間は分かっていたはずなのに……!」
銃声が響く前にリラは動き始めていた。撃つ瞬間、撃つ場所がリラの頭の中にあるものと同じならば完全に躱せていた。
だが、現実のリラは脇腹からわずかに血を流していた。
「急所は……躱せたが……分が悪い……」
素早く脇の茂みに入り込み身を隠すリラ。
「スネイプ! テンメェー! 俺が倒すと言ったのに手を出しやがったな!」
「スィン! スネイプに怒りを向けている場合じゃない! 奴を追うんだ」
「うるせぇな。王子サマは引っ込んでろよ! 獲物を横取りされた悔しさが分からない奴はな!」
スィンの剣幕に横から口を出したアレックスは身をたじろいだ。そんなアレックスの肩に手を置いてヘルマンは首を横に振った。
「おい! スネイプ! そこにいるのは分かっているんだぞ! 降りてこい!」
スィンはかぎ爪をブンブンと振り回しながら一本の木を見上げて叫んだ。
「あれはさっきクルラの羽音がした木じゃないか。狙撃手は自分から位置を知らせるようなヘマはしないんだろう? あの木にいるわけないじゃないか」
アレックスがそう呟くと、果たしてその木から黒い影が舞い降りてきた。
「チッ……。裏をかいたっていうのに逃げられたか。何で追わないんだ。せっかく見せ場を与えたというものを」
「手負いを追ったって面白くねえよ。俺は『真紅のバラ』と一騎打ちで討ち取った、という名誉が欲しいんだよ。良いか、奴のキズが治って再び目の前に現れたときには俺一人でやるからな」
スィンはかぎ爪をぐいっと押しつけて警告するが、スネイプはひょいっと躱す。
「騒がせたな。さぁ、べーラングの町へ急ごうぜ」
スネイプはアレックスとヘルマンに声を掛けて歩み始めた。
「おーい、無視すんじゃねえよ!」
「スネイプとリラが身体を……」
今度はクルラが降りてきてスィンの横を通り過ぎていった。
「って、まだそこにこだわっている奴が居たよ」
スィンは肩をすくめて、先を急ぐ四人の後を追った。