第一話 戦況
序章に続いて本文の始まりです
クレイスとウィードの戦いはどうなっていくのか……お楽しみください
「陛下、現在の戦況について内務大臣ルカスがご報告申し上げます」
クレイス城の大広間では王を前にして、多数の大臣や諸将が集まっていた。
中央には大きな地図が敷かれ、その上に立つ男が自軍と敵軍に色分けした駒を置いていく。
「まず、ウィード軍主力部隊一万がクレイス街道を通ってバラポラス平原に進撃して参りましたが、メルムーク将軍の見事な活躍によりこれを打ち破っております」
ルカスは地図上に置いた駒を動かしながら説明し、最後にウィード軍の駒を足で蹴り飛ばすと広間が歓声に包まれた。
「ふむ、メルムーク将軍には褒美を取らさねばならぬな。将軍にまずは大儀であったと伝えよ」
「陛下のお言葉、将軍が聞けばいっそう陛下のために働かれることでしょう」
恭しく頭を下げるルカスを見て、王は満悦の笑みを浮かべた。
「敵軍の主力部隊を打ち破ったと言うことは、我が軍が勝ったと言うことでよいのかな」
ルカスは一瞬沈黙するが、頭を上げることなく口を開いた。
「陛下、申し上げにくいことですが、勝利を得ているのはメルムーク将軍のみでして、その他の地では敗戦が相次いでおります」
王は眉をひそめてルカスを見下ろす。
「なんと……。具体的に申せ」
「北街道では敵軍二千により、大鷹砦が陥落……。南街道においても敵軍三千により、角突砦が陥落……。また、国境近い村々も占領され、その数はすでに八村」
ルカスが自軍の駒を次々と拾い上げていくたびに、広場内にざわめきが広がっていった。
「ただ辺境の地ではございますが勝利を収めている地がございます」
「それはどこだ」
「我が国北西に位置するホーン渓谷でございます」
ルカスが一歩一歩大股歩きで地図上のホーン渓谷に移動するのを見て、王は苦笑を浮かべた。
「本当に辺境だな……」
ルカスは歩みを止めると、すっと王を見上げる。
「されどこの地、戦略上非常に重要でございまして……」
「どういうことだ? 申してみよ」
「さらに北西に延びるホーン岬の東西は両国の軍港となっており、開戦当初から双方の海軍によるにらみ合いが続いております」
「ふむ」
「敵の狙いはホーン渓谷を越え地上から我が軍を砲撃することにございます。もしも我らの海軍が壊滅すれば、敵は一気にこのクレイス城に攻めてくるところでした。彼らはそれを防いだのです」
国王のみならず、その場に居合わせた者全員が身震いし、そして一様に安堵のため息をついた。
「そのようなことになれば一大事ではないか! 辺境の地といえど守り通した者達を褒め称えねばならぬな。いったいどのような者達なのだ?」
「それが……。百の敵軍を退けたのは……」
ルカスは王をまっすぐに見据えた。
「偵察でホーン渓谷に向かっていた三名でございます」
百の敵を退けた三名とは……
次回をお楽しみください