第十七話 王将軍
ウィード王将軍アウグスティーン・ケリカー……前の王ベルンハルト七世の代に将軍として仕えておきながら、革命により王に成り上がった男である。
王位と将軍の二つを兼ねていることから王将軍と名乗っている。
「ホーク少佐とケッペン大尉よ。申し開きがあるなら聞いておこうではないか」
ガーゼルの城、謁見の間で玉座に座るアウグスティーン王の前で二人は跪いて打ち震えていた。
謁見の間には大臣のような文官が一人もいない。二人を取り囲んでいるのは歴戦の将校ばかりである。
「王よ! 言い訳はありません! ですが、奴らを討ち取る機会をもう一度このホークに与えください!」
意を決したようにホークが口を開く。アウグスティーン王は表情一つ変えずにケッペンの方を向く。
「ケッペンよ。お前は?」
「ホーク少佐に同じく、私めにも機会をお与えくだされば必ずや奴らを討ち取ってみせます」
「そうか……」
長い沈黙。謁見の間は空気が凍り付いてしまった。
「処分を言い渡す」
跪く二人の肩がぴくりと動く。
「銃殺刑だ。すぐさま執行せよ」
「王将軍よ! お慈悲を!」
二人ともすぐさま顔を上げるが、両脇から衛兵に槍を突き出されて動きを抑えられる。
「ならぬ。たかが数名の兵を討ち取ることができぬ無能の士官を許せぬ。貴様らは……」
親指を立てて自分の額に当てた。
「王将軍よ~。お慈悲を!」
二人の悲鳴にも似た金切り声が謁見の間から遠ざかっていった。
「諸将も油断するようなことがあれば、彼等と同じ目に会うことをお忘れ無きよう」
「「は!」」
将軍達は解散してそれぞれの持ち場へと去っていく。一人残されたアウグスティーン王は天井を仰ぎ見るようにして過去を思い出していた。
「勝利の死に神スネイプか……奴を懐刀として革命を起こし、いかなる不利な状況も奴の策によって勝利を収めていった。奴が相手であればホークやケッペンに相手させるのは酷な話か……だが、それで許せば奴には負けても許される、などという風潮ができあがる。それは避けねばな」
目をゆっくりと開き再び床を見下ろす。
「なんとしてでも奴をこちらに引き込みたいものよ。そうすればクレイスとの戦い、否、ブライタン島全土を統一も夢ではない」
「さすれば、王将軍」
謁見の間に朗々と女性の声が響き渡る。凛と張り詰めた声は聞いたものの心を引き締める力を持つ。
「誰だ?」
「リラ・ビセートにございます。私と勝利の死に神スネイプは同じ傭兵団『蛇の牙』に所属しております」
謁見の間に表れ、玉座の前でさっと跪くのは真紅の鎧を身にまとった女騎士。
「おお、そうだったのか……」
「私の方から彼に接触し説得に当たりましょう。何、所詮は金で動く傭兵。あっさりとこちらに参りましょう」
「なるほど、うむ。それではスネイプの件はそなたに任せた。よろしく頼むぞ」
「は」
謁見の間から城の出口へ続く暗い廊下を歩きながらリラは呟く。
「何が勝利の死に神だ。今まで奴とはともに戦ってきた。つまり私も常に勝った側にいたのだ。ならば私も勝利の女神の二つ名を欲しいままにしても良いではないか。
今回が初めて、敵味方に分かれたのだ。奴をこちらに引き込むだと? 冗談じゃない! どちらが勝利に貢献してきたのか……傭兵団の連中、いや! ブライタン島全土に思い知らせてやる!」