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七人の追跡者  作者: 柊椿
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第十六話 影

 バスポラス平原の北部に位置するヒュージ山はクレイス領内随一の高さを誇る独立峰である。

 "八"の字状の末広がりの形状は多くの人々を魅了してきたが、クレイス国民に敬愛されているのは見た目が良いからだけではない。

 ヒュージ山を水源として八方に流れる幾筋もの川は平原を形成し、水資源として農耕にも人々の生活にも欠かせないものである。

 また、その高さから北より襲い来る冬の風を遮るため、南部は雪の被害が最小限で済んでいる。

 なにより、初代クレイス王がヒュージ山を霊峰と称え、頂上から見える範囲をクレイス領と定めたことにから、代々の王の手で一年に一度祭祀を執り行う。

 このためヒュージ山は幾つもの道が整備されており観光の名所として冬を除き登山客が後を絶たない。


 形状・水資源・気象・歴史・観光……あらゆる面に於いてヒュージ山は名実ともにクレイス一の山であった。


 しかしウィードとの開戦以来国民は観光どころではなくなり、人影は全くと言って良いほど無くなった。

 頂上付近にある見張り台では二人の兵士が寒さに打ち震えていた。

「バスポラス平原ではにらみ合いが続いているな」

 南の麓に視線を落とすと広がる平原に二つの塊が見える。

「お互いに決め手がないんだろ」

 東の塊がウィード軍で、西の塊がクレイス軍だ。

「前から思っていたんだが、何故ウィード軍は背水の陣を引いているんだ?」

 ウィード軍の東側にはヒュージ山を源流とした川が流れていた。

「それが我らがメムルーク将軍の作戦だよ」

「ん? どういうことだ?」

「渡河する際に攻めることは有利だ。だが、メムルーク将軍はあえて川を渡らせて総力戦に挑んだ。相手に背水の陣を引かせることで殲滅する気なのさ」

「それじゃぁ、さっさと殲滅すればいいじゃないか」

「敵もそれを分かっていて、防御に徹した陣形を引いている。おそらくバスポラス平原は囮で、他の街道を少しずつ攻略する作戦じゃないかと」

「それは大変だ!」

「メムルーク将軍もそれは分かっているから、他の街道を牽制する戦いをしている」

「それで長期化して、『お互いに決め手がない』ことになるのか」

「おい、あれ見ろよ」

 一人の兵士が指さすところには、つづら折りに上がっていく登山道を無視して、木から木へと飛び移り頂上まで一直線で突き進む濃紺色の影があった。


 一般人なら高山病を予防するために一泊二日で登るところをあっという間に頂上までたどり着く。見張り台の横に来た影は息一つ乱れる様子はない


「何者だ!」

 兵士の一人が槍を影に向けて突き出す。だが、影は気にすることもなく目をつむり耳に手を当てて鼻をひくつかせ、何かを探すようにぐるりと周りを見回した。

「無視をする気か!」

「待て! この方は……」

 もう一人の兵士が手で制す。

「クレイスの忍び……味方だ」

「何ですって! そうとは知らず無礼を……」

 兵士達のやりとりも耳に入っていないのか、突然ぴたりと止まり目を開く。

「キタ……ほーんケイコク……ノホウカ……」

「え? 何が……」

 忍びは口笛を吹くと空から一つの影が舞い降りて腕に捕まらせた。

「これは、クレイスオオタカ……」

 兵士達の疑問の声を尻目に、忍びは淡々と手紙を鷹の足に括り付ける。

「イケ」

 言葉と同時に鷹は舞い上がって一直線に南西の方角へ去っていった。

「あっちはクレイス城の方角……あ?」

 兵士達が鷹に気を取られている間に、忍びはは登ってきたとき以上の早さで駆け下りていった。


「な、何だったんだ?」

「報告は……」

「必要なのか?」

 見張りの兵士はお互いに顔を見合わせるだけだった。


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