第十四話 勝利
「赤い翼を持つ女……ウィード革命を成功に導いた『勝利の死神と天使』……傭兵だったな。あの時は一緒の軍にいたというのに……金次第で敵味方を変える輩か」
ケッペンが歯がみをしている横では、相変わらずホークが頭を抱えていた。
「わ、私の第二十一歩兵大隊が……」
「ホーク少佐、嘆いても仕方ありません。橋が落ちた以上、ここを攻略することは無価値です」
「わ、私の……」
「これは……かなり混乱しておられる。副隊長!」
「は! ここに」
「混乱しておられる大隊長に代わりあなたが指揮を執られるべきだ」
「は! 第二十一歩兵大隊、退却だ!」
ほとんどの兵士が谷底に落下して残ったわずかな兵が、さざ波のように姿を消していった。
「ウィード軍が退いていく……スネイプの策には驚かされるばかりだ」
「あったり前よ! スネイプがいればどれだけ不利でも負けないんだから! それよりも私はこの策を聞いてすんなり受け入れるあなたに驚きよ」
クルラは胸をはりヘルマンの腕を掴んだまま西岸の方へと向かう。
「スネイプが勝てると言った。貴女が私を助けると誓った。ならば全ては信じるだけだ」
「金次第で動く傭兵を信じるの?」
「無論。それで敗北するなら、それで戦死するなら、それは己の未熟さによるもの。悔いはない」
「変わっているわね」
小刻みに震える肩からヘルマンに振動が伝わる。
「貴女方ほどではない。金次第で命をかけているのだから」
「金で命をかけているのはスネイプよ。私は、愛」
人差し指を横に振ってヘルマンに否定の意を示した。
「ヘルマン! 心配したぜ! 勝負を勝ち逃げする気かと……」
西岸ではスィンとアレックスが出迎えていた。
「気にかける必要はないと言ったはずだ」
「んなこと言ったってよう……ったく。クルラがいるならいると言ってくれよ。久しぶりだな!」
「なんであんたがここにいるのよ?」
クルラはヘルマンを地面に下ろすと、顔をしかめてスィンを見た。
「まぁ、詳しくは後でな。それよりお前がいるということはスネイプもいるのだろ?」
「まぁね。これから拾いに行くのよ。あんたも一緒に来る? ついでに置いてきてあげるわ」
「つれねえなぁ……さっさと行ってこいよ!」
「言われなくても行くわよ」
スィンに舌を出して飛び立っていく。
「今のが空の民……初めて見たよ。旧知の仲なのか? スィン」
「ああ、孤児院で同じ釜の飯を食った仲さ。そしてこいつがヘルマン。兵学校の同期だ」
「ヘルマン=シュタイナー曹長です。まさかこのようなところで殿下に拝謁できるとは夢のようです」
ヘルマンの敬礼、そしてアレックスの返礼……軍特有の儀式が取り交わされる。
「君の活躍は聞いている。よくぞホーン橋を死守してくれた。この橋を砲兵部隊が突破したらウェスト・ホーンの港は火の海になっていた。そうなればイースト・ホーンに終結したウィード海軍によってクレイス城は廃墟と化していただろう」
「ありがたきお言葉」
「スィン少尉からも色々と聞いている。君にはもう少し活躍して貰いたい」
「スィン……少尉?」
ヘルマンは眉をぴくりと動かすが首は微動だにしない。そんな様子をスィンはニヤニヤしながら眺めていた。
「まぁまぁ、王子サマ……その話はスネイプ達が戻ってきてからにしようぜ。あいつらも連れて行くとより面白い」
今度はアレックスが眉をひそめる番になった。
「面白いとは……何だ。君は僕の使命を何だと思っているんだ?」
スィンはにやつく顔を止める気配はない。
「決まっているだろ? 俺様が大活躍する英雄譚さ」
アレックスは肩を落としてため息をついた。
「君には認識を改めて貰う必要がありそうだな」
「お、そうこう言っているうちにスネイプ達が戻ってきたぜ」
先ほど夕陽に照らされていた空の民も今は闇に包まれて三人の元に降り立った。
、秋の涼しい夜風が戦場の熱気を払い、王子は言葉を紡ぎ始めた。