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七人の追跡者  作者: 柊椿
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第十三話 空の民

 ホーン橋から少し渓谷を降りた岩場に黒い影が動いていた。

「合図の銃声から百数えた後……この仕掛けを発動させる……手はず通りだ」

 頭の中で、流れを再確認する。

「ウィードが来る前に完成させたかったが、意外と早かった。だが、どうやら間に合ったようだな。橋の上の戦況がどうなっているか分からないが、ヘルマンを信じるしかないだろう」

 スネイプの両手には二本の銅線が握られていた。

「九十八、九十九、百!」

 言い終えると同時、銅線を重ね合わせる。


 刹那、渓谷に轟音が響き渡る。ウィードの進軍よりも、ヘルマンとスィンの二人が生み出した暴風よりも、大きなそれは、橋の中央に火と煙を生み出していた。

「何だ! 今の爆発は!」

 ケッペンは双眼鏡で確認するまでもない現象に驚き慌てふためいた。

「ホーク少佐! 引き上げさせませぬと、兵達が……」

 すぐさまホークの顔を伺うと、彼は眉を吊り上げ、目を見開いて落ち行く橋を眺めていた。

「分かっておる! 全軍退却!」



「へ、ヘルマン! 橋が、橋が落ちる!」

 橋の爆発はちょうど、スィンとアレックスが西岸にたどり着いたときだった。

「待て! どこに行くんだ!」

「決まっているだろ! ヘルマンを助けに行く!」

「ダメだ! 君まで落ちる!」

「今なら、まだ、間に合う!」

 アレックスは手綱を振るうと、馬で橋の入り口を塞ぐ。スィンの行く手を遮るように。「何するんだよ! どけ!」

「諦めるんだ! 君まで落ちる! そんなこと! 黙ってみていられない!」

「ヘルマンが落ちるのは黙ってみているのかよ!」

「君が言ったはずだ。一を犠牲にして十を救うか、十を犠牲にして一を犠牲にするか、と。

 僕にとって……君が十だ!」

「く! 小生意気な……良いからどけよ!」


 橋の上では、大混乱が起きていた。爆発によって中央が音を立ててひびが入り。そこから少しずつ沈んでいる。

その結果はどうなるか、そこにいる者全員の脳裏に浮かぶ。

 もはや、ヘルマンに構う者はいない。

「某達の勝ちだ」 余裕の笑みを浮かべて、サーベルを鞘に納めるが、その身体は橋と共に少しずつ下がっていた。

立つことが困難なほど橋が傾いてくると、ウィード兵がポロポロと渓谷へと落下する。

「そろそろか?」

 橋の欄干に手をつかんでいたヘルマンが辺りを見渡すが爆発による煙は今だに晴れず視界を遮っていた。


「これはいったい何の悪夢だ!」

 ホークが頭を抱えて悲壮な叫びを上げる。

「しかし、さすがにあのクレイス兵も、これでは……」

 ケッペンの呟きがホークの耳に入る。

「たった一兵卒を倒すために、どれほどの犠牲があったと思う! 死んでなければ困る!」

「な、何故だ!」

 ケッペンは双眼鏡をのぞいて見える世界が信じられかった。



 谷底から吹き上がる風に乗ってゆっくりと舞い上がる真紅と深緑の影。


 風が煙を散らして少しずつ浮かび上がる二つの姿。


 軍服姿のヘルマンを吊り下げた小柄な身体と細い腕。


 まだ幼さが残っているが大人へと脱皮しようとする少女の容貌。


 そして何より夕陽を浴びて光に濡れる紅い翼。



「な…何故だ! 何故別たれた四つの民の一つ! 空の民がクレイスに味方する?」

 ケッペンの驚きを風が少女の元へ届ける。

 空の民……伝承において人間と住む世界を分けた一族。彼らはその名の通り背中の翼で大空を舞う。

 その一人がまさに今目の前で宙に浮かんでいた。その姿は天使かあるいは悪魔か。

「え? 何故ですって? 何故かと問われれば答えは一つ……愛、かしら?」

 ケッペンの疑問に少女は戦場に似つかわしくない満面の笑みで答えた。

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