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七人の追跡者  作者: 柊椿
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第十一話 三戦

 ホーン橋における前回の戦いから約一週間。ウィード側は歩兵三百という陣容をそろえてきた。

橋の上のヘルマンはその様子を見て、スネイプの言葉を思い出していた。

「本当に砲兵の姿が見あたらない。まずはこの橋を確保してから連れて来ればいい、と言うことか」

 三百の歩兵がこの橋に押し寄せてくる姿が脳裏に浮かぶ。

前回大いに役に立った馬防柵はこの大波を受け返すだけの力はあるか、不安がよぎる。

「ままよ。スネイプが後ろにいないことが気がかりではあるが」


「ふ、ふはは! 一週間の間に、援軍が来ているかと思ったが、双眼鏡をのぞき込むまでもなく、前と変わらぬことが丸わかりではないか! さすがに今回は勝ったわ!」

「勝つのは貴様ではない。この私の第二十一歩兵大隊が勝利するのだ」

「は、す、すみません。ホーク少佐……」

 右にいる大柄な男、歩兵を率いてきた

「少数を相手に二度の敗北。そしてこの私を出張らせるという失態。出世の道は途絶えたな。

 まぁ良い。貴様のおかげで逆に奴らクレイス兵の株の方があがっている。あの橋の上の兵士を討ち取った者には栄誉が与えられるだろう」

「……」

 ケッペンは先ほどの昂揚も消沈して、うつむいたままとなってしまった。

「ホーク大隊長、出撃準備整いました」

 伝令の兵士が駆け寄って来て伝えると、さっと右手を挙げた。

「第二十一歩兵大隊!」

 声と同時に点に向かって伸びていた槍が一斉に斜めに向けられる。

「突撃!」

 沸き上がる喊声。前回とは違う声量に普通の者ならこの時点で臆して逃げ出す程。

「来たか」

 押し寄せる歩兵の波に、ヘルマンは逃げ出すどころか、サーベルを抜き放ち、身構える。その視線は真っ直ぐウィード兵の先頭に向けられていた。

「良いか、まずは馬防柵を破壊する! 手はず通りこなせ!」

「「おう!」」

「かかれ!」

 先頭の部隊が槍を捨て、短剣を抜いて駆け出してくる。

「狙いは馬防柵を組んでいる縄か!」

 ウィード側のもくろみを察知し、近づいてくる兵を柵の隙間からサーベルで突き刺していく。

だが、右の兵を倒せば左の兵が短剣を縄に突き立てる。左の兵を倒せば右の兵がかかる。

次々と押し寄せる兵の波に、とうとう馬防柵の縄が切れ、音を立ててバラバラになってしまった。

素早く、ヘルマンは後ろに下がり間を置く。

「はっはっはっ! 馬防柵が無くなれば、残るは一兵卒のみよ! さぁ、一気にとどめだ! かかれ!」

 槍を捨てた兵はそのまま短剣を、残る兵は槍を構えてヘルマンへ一歩一歩近づいてくる。

「ヘルマン! 肩を借りるぜ!」

 あと二歩近づけば交戦開始という距離でヘルマンの背後から声が聞こえてくる。

「この声は……承知!」

 ウィード軍が一歩前進。槍なら届こうかという距離。

「……三! ……二! ……一!」

 背後の声が数字を数える。

ウィード軍も前進。

先頭の兵士が短剣を振り上げる。

突然、ヘルマンがうずくまる。

その背後から突然クレイス兵が現れる。

兵はうずくまったヘルマンの肩に足をかける。

「うぉおおおお!」

 ヘルマンは雄叫びと共に立ち上がる。それは即ち背後の兵士を空へと押し上げること。

その力を利用し大きく跳躍して、ウィード軍の敵陣まっただ中に降り立つ。

「一つ! 二つ!」

 いや、ただ降り立っただけではない。その拍子に片手で一人ずつ、計二人の兵士を切り捨ていていた。

「ヘルマン! 楽しそうなことやっているじゃねえか。俺も混ぜろよ!」

「もう既に混ざっておいて何を言うか……スィン」

 あっけにとられているウィード軍の隙を突くようにヘルマンは敵陣に飛び込み、左右にサーベルを振って兵士を切り捨てながら、スィンの傍へ駆け寄る。

「お前も来たか!」

 お互いに背中合わせの格好。

「ひゃっほう! お前と背中合わせで戦えるなんて夢にも思わなかったぜ! これは楽しくなるねぇ!」

「ふん、これほど頼りになる背中が来るとは正直思わなかった。

 ウィード兵よ、覚悟せよ。汝らが相手するはクレイス王立兵学校歩兵科第五十七期首席卒と……」

「次席卒! ああ、ちなみに、俺が首席ね」

「剣術の成績は某が上だ」

「成績はな!」

「ふん、ならば実戦でどちらが多く倒せるか……」

「勝負だ!」

 二人同時に、囲んでいるウィード兵に斬りかかっていった。


「う、嘘だろ? スィンはこんな中、何も恐れずにかかっていったのか?」

 アレックスは橋よりも離れたところで馬上から戦場を見つめていた。

「震えているのか、僕は……。初めての戦場で……」

 手綱を握っている手をじっと見るが、すぐさまクビを大きく横に振る。

「しっかりしろ! 僕は王子だぞ。震えていて国民を導けるものか! 行こう! セイムダル!」

 手綱を振るうと、一陣の白馬がホーン橋に向かって駆け出した。

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