第百四話 つけ
その頃、広場では静寂が支配していた。
一体何が起こったのか、誰も理解できぬままに、空の処刑台を眺めていた。
だが、それも長くは続かなかった。
「冗談じゃない、俺達は処刑を見に来たんだ」
誰もが思いつつ、一番に口にすることを憚っていたが、一人が言えばあとは堤防が切れたかのようにさざ波となってざわめきが広がっていく。
ざわめきはやがて罵声となり、罵声はさらに怒号へと変わる。
そして一人の男が、先ほど投げ損ねたトマトを処刑台に投げつける。
それは決して誰かに当たるという類のものではないが合図としては十分だった。
続けて皆が手にしたものを処刑台に投げつける。
その場にいた処刑人は、腕で顔をかばいつつ、王将軍に助けを求め、その姿を見た。
彼の口が動く。言葉は処刑人には届かない。
だが言いたいことは、その不適な笑みですぐにわかった。
「ウィード刑法第四十二条……、第二項……。刑の執行を損じたときは……、その執行の責は刑と同等とする!」
処刑人は条文を思い出し、辺りを見回す。
かつて部下だった者達の目つきが変わっている。死刑囚を見る目で己を見ている。
「お、お助けを! 王将軍様! 私はあなたに忠誠を……!」
王将軍は彼の言葉に耳を貸すことなく、その場を去って行った。
「王将軍さ……!」