序章
短編を一本しか書いておりませんが、連載に挑戦です
どうぞこれから宜しくお願いいたします
「来よる、来よるわ。ウィード軍め……ざっと見て一万くらいか。儂を打ち破りたければ、この二十倍は持ってきてもらわんとのう」
クレイス王国の将軍メルムークは双眼鏡で彼我の陣形を見比べると、満足そうに笑みを浮かべた。
「ほれ、お主も己の目で確認せよ」
隣に侍っていた男は将軍から双眼鏡を受け取って覗き込むが首をかしげる。
「将軍、我々の戦力は五千……私には一万でさえも、そうやって余裕でいらっしゃるのが不思議なくらいなのですが……
陣形を見られて我が軍が有利だと判断されたのでしょうか?」
「がはは! 参謀デュルクよ! 戦は兵の数では決まるものではないぞ! 考えてもみたまえ。この平原は我が軍の演習場ぞ。いわば我らの庭よ。自分の庭で負けるものか」
将軍は体格と同様、大声が良く響き渡る。この笑い声は司令所から自軍全体に伝わっていた。
「そろそろ開戦じゃな……各隊に伝えよ。銅鑼の号令で手はず通り進げ「将軍!」何事じゃ! 儂の指示を遮るだけの事なのだろうな!」
司令所の傍にそびえ立つ見張り台から、兵士の声が降り注いだ。
「例の……あの男が……!」
「なにぃ! またあいつか!」
デュルクから双眼鏡をひったっくって心当たりを探る。
確かに居た。
号令を待たずに飛び出していった一兵卒が。
「あ、の、お、と、こは! いつもいつもいつも儂の言うことを聞かずに!」
双眼鏡のレンズにひびが入ってもおかしくないほどに握りしめる手が震えていた。
「しょ、将軍……」
デュルクは落ち着かせようと近づくが、メルムークが手で制した。
双眼鏡に映る敵軍に一筋の道ができていることを見逃さない。
「分かっておる! 伝令!」
「はい!」
「第三部隊に伝えよ! 奴が切り開き混乱している敵右翼に進撃せよ!」
「はい!」
「第二部隊はその場で待機! 敵左翼の進撃に対し、防衛に徹せよ!」
「はい!」
「しょ、将軍!」
「今度は何事じゃ!」
「奴が、敵右翼から中央へと!」
「何だと! 全く! 儂の作戦変更が追いつかぬではないか!」
がばっと立ち上がって、兜をかぶり始めた。
「将軍、どちらへ?」
「何をぐずぐずしておるか! 奴が中央へ切り進んでいるのは好機ぞ! 我々本隊が一気呵成に攻め込むのじゃ! 遅れるものは置いてくぞ! 馬を持てい!」
「将軍、お待ちください! おい、何をしている、わ、我々の分の馬も持たぬか!」
次から次へと馬が司令所へと連れてこられてくるが、その合間を縫うように将軍は早々と騎乗して司令所を抜け出す。
「遅い遅い遅い! 戦況は刻一刻と変化するぞ! 早く動いたものが勝つのじゃ! 覚えておけい! 本隊進撃開始じゃ!」
「ああ、お待ちを!」
参謀達がもたついている間にも、メルムークを先頭にした本隊騎馬軍団が敵軍中央へと突撃していった。
いかがでしたか?
序章であり、短いですが感想ございましたら宜しくお願いいたします。