冴えないプロローグ
小学校の入学式。
「櫻井くんは優しいね。」
あの言葉を今でもずっと忘れない。
天使のような優しい声で名前を言われたその瞬間
僕は恋に落ちてしまった。
真っ直ぐと僕を褒め称えるその眼差し。
お日様の様に陽気で弾けるような笑顔。
全てが愛おしく感じた。
かといって、かつての僕は想いを伝えるような事も
しなかった。
つくづくなんて冴えない男なのだと自分ながらに思う。
そんな彼女は現代の世界三代美人があれば必ず入るだろう
という程整った美貌を持っているため告白されるのは
日常茶飯事。
天は二物を与えずとは嘘だと言えるほどの才色兼備。
ほとんど話す機会はなかったが、更に僕は彼女の事が
好きになっていた...
時は流れ高校三年生の冬、真っ白な雪が降ってきている中、
僕は予備校へと歩みを進めていた。
午後5時45分から6時になるまでの15分間。
この休憩時間にスマホを鞄からだし瞳を閉じ、イヤホンで音楽を聞く。
何気ないこの行動がルーティーンになっていた。
僕はなんてつまらない人生を18年間過ごしてきたんだ。
もしあの入学式に行くことが出来るのなら...
もしそんなチャンスが僕に舞い降りてきてくれたら...
そんなどうにもならないような後悔が頭を横切った次の瞬間
辺りが何やら騒がしくなった。
瞳をあけると、僕は小学校の入学式に居た。
懐かしいという感覚すら存在しない程に昔の風景がそこにはあった。
目の前にはあの日で会った時の彼女がいた。
そう、それは冴えない僕に舞い降りたチャンスだった。