愚痴を聞いてくれるかな?
冬が明けて、少し暖くなった風を浴びながら僕は友人と自転車通学していた。うん、やはり男二人は悲しいな?
「我が友、鳥江よ。やっぱり僕がモテないっておかしいと思わないか?本当だったら横にいるのは君じゃなく、理想的な女性だと思うんだけどな?」
と、悲劇の主人公が神に世の理不尽を問うように言ってみる。
「バカ。前見ろ、前を。車来てるぞ。あとそれ何回目だよ。さすがにそんなに言われたらネタかと思っちゃうぜ」
暴力的だが根は優しい友人、鳥江は注意を促す。でも、君のパンチの方が交通事故より危ないかな! あれは僕以外が食らったら死んじゃうね。
それよりも、ネタと思われるのは困るな……違う話題にするか。
「そういえば昨夜のドラマは見たかい?あの若者に人気って言われてるヤツ」
「お前も若者だけどな。あぁ、毎週見てるぜ。恋愛モノのやつだろ? 友恵との話すネタにもなるしな」
まぁ僕はそんなにドラマは好きじゃないんだが、彼女ができてもいいように女子が好きそうな話題を持っておくようにしている。今の所は使う機会がないが、いつでも使えるようにしている。神様、僕は準備できてるよ?
「そう、それだよ。あのドラマ面白いよねぇ。でも、気に入らない所があるんだよ。主人公が憧れている男性がモテまくってるだろ?僕はモテてる光景を見るたびに思うのさ、やっぱり俺がモテないのはおかしいと……」
「結局、話題変わんねぇじゃねぇか!」
鳥江は自転車を軸にして回し蹴りを繰り出した!
僕はそれを華麗にしゃがんで避けた……わけがなく、そのまま顔面でモロに受けてしまった。避けろ?ムリでしょ。鳥江が異次元すぎる。ヤムチャとベジータを戦わせたら結果は火を見るより明らかでしょ?それと同じだ。
回し蹴りを食らった僕は宙を舞い、校門の前にたどり着いた。そんなトリッキーな形で登校した僕は見慣れない生徒がいることに気がついた。あ、そうか。
「今日は入学式だったね……」
ようこそ、我らが母校。今日は空が血のように赤く、日が照っているせいか目眩がする。あぁ、絶好の入学式日和かな。
それと同時に僕は高校2年生になって、新たな後輩ができるのか。年下との交際……悪くないな。
「血まみれだけど大丈夫ですか!?」「救急車! 誰か救急車を!」といった後輩たちの元気な悲鳴を受けながら倒れていると、もうひとつ太陽が迫ってくるような気がした。
「おーい! 後藤ー! 大丈夫かー?」
なんだよ教頭か。反射(どことは言わないが、ヒントは上の方)していたから錯覚しちゃったんだな。
別に今日の事は珍しくなく、血へどを吐きながら登校した時は救急車を呼ばれかけたこともあったが、僕の体が丈夫だと知られた今ではそんな慌てられることはない。
しかし、教頭よ。僕を名前で呼ばないでくれ。ほら、こんなカッコ悪い状態を後輩が見てるよ。名前を覚えさせないで!
と、心の中で叫んでいると瞼が重くなってきた……