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02:はい、もう一回


「俺と結婚しろ」

「………」


あぁ、これはデジャブだわ。


どうしよう、相手の携帯が鳴った隙に上手く逃げ切れたと思っていたのに、まさかの帰り道で遭遇してしまうとは。

私の今日の運勢は最下位に違いない。


「返事は」


会社の会議室でロマンチックのかけらもない突然のプロポーズを何とかかわして、帰路についたのはついさっき。

なのに、もう目の前では先ほどとさして変わらない光景が繰り広げられている。


困った。

何がどうしてこうなったのかはさっぱり分からないが、これはきっとストーカー化するやつだ。

このまま家までついて来られたら非常に困るし、きっと困るどころではない大事件になる気しかしない。


「あの、大変申し訳ないのですが、私、彼氏がいるので…」

「!」


何とか相手を刺激しないように、穏便な方法を選んだつもりだった。

なのに、次の瞬間男の目つきが不穏なものにかわり、抱き上げられ、混乱している間に車の助手席に放り込まれる。


「え、え、ちょ、ええええ!?」


拉致!!??

拉致ですか、これ、ちょ、警察ううううううう!!!


瞬時に”殺される”という最悪の結末を想像する。

どうしよう、もう恐怖しかない。


ただ平穏に淡々と生きてきた。

割と真面目に生きている方だと思う。

なのに、こんな仕打ちなんて割にあわなすぎる。

私の行いはそんなにもよろしくなかったでしょうか神様…!!


ぶるぶると震えていると、突如布をかけられて、ああ、拉致監禁確定だわと本格的に震えそうになったところで、

それがただのブランケットであり、膝にかけてくれただけだと気付いた。


「…?」

「スカートだから、足が冷えるだろ」

「………」


頭の中での想像とはあまりに違う柔らかい声に、驚いてしまう。

ぽかんとする私に彼は当たり前のように「お前が言ったんだろ」と続けた。


「…私?」

「そうだ。女性は身体を冷やしてはいけないのだと。だからもっと労われと」


彼と初めて会ったのはついさっきだ。

勿論そんな会話をした覚えはない。


…だとしたら、酔いつぶれている時にでも言ったのだろうか。

既にあの時の事は曖昧な記憶なので、顔も覚えていないのだ、何を話したのかだって定かではない。


「…で、彼氏はどこのどいつだ?」


低い声と共に助手席のシートに押し付けられて、完全に身動きが取れなくなる。

ブランケットによって少しだけ和んだ心が、再び萎縮する。

何を和んでいたのだろう。

この状況でそんな心情に一瞬でもなった自分が、恐ろしい。


「…えっと…あの…」

「まずはそいつをどうにかしないとな」

「どうにか…!?」


物騒な想像しかできない。


「どうにかって…?」

「なんだ…その男の心配をするのか?妬けるな」


まぁ、いい。それは後でじっくりと聞こう。

そう言って、私の髪を一房とって、そこにキスをした。


先ほどの手の甲に続いて、キスをされるのは二度目。

事件の犯人と被害者になりつつある関係であるはずなのに、とても大事そうに触れてくるものだから、その仕草にまた少し見惚れてしまう。


カチという音がして現実に引き戻され、シートベルトをされたと知る。

私をシートに押し付けていた男は、運転席に身を戻すと、ゆっくりと車を発進させた。


「………」


拉致られているというのに、なんだろうこの胸のドキドキは。

おかしい。


おかしいだろ、自分。


目を覚ませ。ドキドキしてる場合じゃないぞ、マジで。

これ明日のニュースとかになっちゃう展開じゃないの?


落ち着いてよく考えて。

完全に誘拐です、これ。




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