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01:控えめに言ってもやばい


「俺と結婚しろ」


私は今、とても現実とは思えない場面に遭遇している。


「返事は」


長身で短い黒髪。

スーツという3割増し装備で、その男は腕を組み見下ろしてくる。


どうしよう。



どうしよう、




……………………








…………誰!?!!!!!???








10分程前までは、如何にして定時ダッシュをしてやろうかと企む、いつも通りの日常であり、

その日常にこの目の前で仁王立ちしている男など、登場人物リストに名前も載らない存在だった。


前職の会社があまりにもブラックで、ここへ転職した時は天国はここにあったのかと思える程心穏やかな生活がスタートしたというのに、

まさかの平穏を脅かす展開が今目の前で起こってしまっている。


もう一度言おう。



こいつ誰だ。



転職後、それなりに会社の人との交流をこなしてきたが、こんな男今まで視界にすら入った記憶はない。

それなりに良い容姿なので、見たことがあれば覚えているだろう。

必死に色んな部署のメンバーを思い浮かべるも、やはりどこにもこの男の姿はマッチしそうになかった。


けれど、急に腕を引かれて近くの会議室に連れ込まれ、その男の首には我が社のIDカード。

ちゃんとしっかりと顔写真がこちらをみている。

すみません、どちら様ですか。


「おい」


一言も言葉を返さない私に、苛立ちを全面的に押し出してくる。

何でそんな機嫌悪そうな目でこちらを見ているの?


もしかして私何か仕事でやらかしたのか?

それでお怒りになっているのですか?

そうだとしても、急に会議室に連れ込むなんて、セクハラどころではない大事件だ。


「……えっと、あの…失礼ですが、どちらの部署の方ですか…?」


そう言うのがいっぱいいっぱいの私に、彼は今度は大きな溜息をついた。

誰だか分からないが、取りあえず最初からずっと偉そうでカチンと来る男だという事だけはこの数分で理解した。


「そうか、やはり覚えてはいないのか。…そうか……」

「………」


独り言のようにブツブツと呟くその様子に、数日前に飲み屋で記憶をなくした事を思い出す。


友人数人と久しぶりに会い、懐かしさからかなりの量の酒を飲んだ。

飲み過ぎた挙句に途中から全く記憶がないのだが、友人曰く、そこで声をかけてきた男がいたらしい。

飲み屋を出る時は友達と一緒だったはずだし、目が覚めたら家のベッドできちんと寝ていたので、

特に気にも留めていなかったのだけれど。


(あれ…もしや、なんかあった…?)


マジか。


実は同じ会社の人と飲み屋で出会し、とても失礼極まりない態度を取ってしまったのか?

今は、あの時の謝罪を要求されているの?

”結婚しろ”って嫌がらせか何かですか?


それとも何、記憶がないということはもしかしてもしかしなくてもそういう関係になってしまったのか?

『なんかいい感じだったよ、イケメンだったし勿体ない』って友達も言ってた、そういえば。



………。


いやいやいや。

ないよ、ないない。

そんなの記憶が全くなくて家で目が覚めるなんてないない!!


仮にもし何か、そういう身体の関係的な何かがあったとして、

こんな風に声をかけてくるってどういうことなの?

いや、思いっきり連れ込まれたんだった、声をかけるどころの騒ぎじゃない状況。


結婚しろなんて訳の分からないことも言ってるし、何?責任を取れということなの?

なんで私が責任をとるの?

こういう場面でよく聞くのは男女逆なんじゃないか?


あぁ、それで責任とるから結婚しろ?

いやいや、というかだったら結婚しろという命令系はとてもおかしくはないですか?


七瀬 蓮子(ななせ れんこ)


あぁ…!しかもこいつ私の名前知ってる…!!

会社のネットワーク使えば社員検索とかできるもんね!


「俺は、東雲 虎次郎(しののめ とらじろう)だ」


そんな古風なお堅い名前はやっぱり記憶にございません!


「お前は忘れているかもしれないが、俺は覚えている」


やめて!忘れて!

私は一切記憶がないので、あなたも忘れて、

もう完全に何もなかったという事でいいじゃないですか!


「どうしたらお前が思い出すのかは分からないが、諦めはしない。

ずっと探していたからな。まさか同じ会社にいたとは、これはやはり運命というやつか」

「………」


どうしよう、運命なんて言い出しちゃった、すごく怖い。

こいつヤバイやつかもしれないと思った瞬間、腕を取られて手の甲へと口づけされる。


「………っ」


あまりの華麗さに驚きや拒否よりも、思わず見惚れてしまった。


時が止まったかのように思えて、何故か動けない。

閉じられている彼のまつ毛がゆっくりとあがった後、獲物を狙うような目に捕らえられた気分になる。


少し流されかけたその時、彼の一言によって一気に現実に戻された。



「お前は前世で俺の妻だった。

勿論それはこの世界でも変わらない。

だから早く手続きを済ませよう。この世界では書類一枚で夫婦認定されるからな。

そんなものでは俺達の愛を量る事は出来ないが仕方がない。

よし、役所に行くぞ」


「…………は?」


続々と飛び込んできた意味不明な言葉達に、危険人物要注意な存在であることが確定した。






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