妖精の名はライ
投稿いたします。よろしくお願いします。
ストランド侯爵家の図書室には、かなりの蔵書がある。古くから魔法に秀でた一族であったため、中でも特に、魔法に関連する書籍は、これを目当てに訪れる客人もいる程で、王都の図書館にも引けを取らない。
妖精のことを調べてみようと、今日は、図書室にこもっている。相談できる人がいないからと言って、手をこまねいているわけにもいかない。
妖精の出没が、いつまで続くか分からないが、王立学園の入学までには決着をつけたいと思っていた。学園でまで遭遇した日には、今度はどんなレッテルが貼られるか分かったものではない……。
ケイトには、しばらく集中したいから放っておいてと言ったのだが、「ようやく、やる気になりましたか」と返されて少し複雑な心境である。
誰も姿を見ることができない妖精、いや、誰もというには語弊があるかもしれない。とりあえず、限られた人間のみが見えるということにポイントがありそうだと思った。
限定的な魔法とか呪いとか……そのあたりからかな。
魔法の書架が並ぶコーナーに向かう。
手始めに一番端の書物をぱらぱらと開いた。この辺りのものは既に勉強しているものばかりで目新しさはない。
うーん。家庭教師の先生からは今まで妖精の話なんて聞いたことがなかったしなぁ。
とりあえず、次々と開いていく。
この書架はもうないかぁ。
次の書架に移りあれこれ読んでいると、その中の一冊に挿絵が載っていた。
あっ、妖精!?
そこには当時の国王と妖精が並び描かれていた。
でも、この本ってファティマ国創生期の話が書かれたものだよね。なんで、こんな本に妖精が書かれているんだろ。
私はその本を抱えると、急いで窓辺のソファに移動した。
なになに。
どうやら、古より国と妖精は一体であり、妖精の加護によって繁栄し続けているとのことらしい。
確かに妖精やらノームの話なら子供の頃に読んだ絵本にもあった。だけど、なんていうか、そういう妖精は国と一体っていう感じじゃなかった。
国王と妖精。それが並び描かれる意味って何だろう。今一つはっきりとしない。
私は目を閉じて、こめかみをぐりぐりと揉みほぐす。
ふぅ。もう少しだけ続きを読むか、と目を開けると……。
「しーーーーーっ」
ぎょっ。
見開きのページの上に、あの妖精が座ってるっ!
妖精は自分の唇の前に人差し指を立てて、静かにと合図している。
私は出し損ねた声を飲み込み、こくこくと頷いた。
「叫ぶのは禁止。まずは、そこからかな。どう?」
「……いや、だって、それは……」
「僕の名前は、ライ。君はマリーだよね」
ライと名乗る妖精は、パタパタと羽を動かして、さらに距離を詰めようとする。
「ちっ、近っ」
「あっ、ごめんね。じゃ、このまま座ってるから」
ちょこんと座り直す、妖精ライ。
何だか、可愛い……。いやいや、そんな場合じゃなかった。
「それじゃ、改めまして、マリー」
「あの……どうして、私の事知ってるんですかね……」
「だってヴィーの妹でしょ?」
ん? なぜ、ここでお兄様の愛称が出てくる?
というか、それ答えになってないよね。
目の前の妖精の不思議な会話に、思考が追いついていかない。
「え、えぇっと、たぶん、そのヴィーというのは、兄のヴィンセントですかね……もし、そうなら、私が、妹のマリアンヌですが……」
妖精というのは、貴族事情に精通しているものなのだろうか。
よく分からないが、私の手持ちの情報だけで答えが出るとも思えない。
「マリアンヌで、マリーね。じゃ、マリー、よろしく」
こてんと首を倒して、にっこり笑ったライの態度に、あざとさしか感じられない。
相手からどう見られるか、相手にどう見せるか、常に意識している者。
何となく、そんな感じがした。
妖精なのに、そんな必要があるのかと不思議に思う。
やめ、やめ。考えるのはやめよう!
そう思ったら、何だか凄くすっきりした。
もう、いいや。
「まぁ、100歩譲って、マリーって呼んでも構いませんけど」
「いいね。そういう気安い感じ」
「それで、ライさんでしたっけ?」
「ラ・イ。呼び捨てでいいよ。はいやり直し」
「……めんどくさっ。わかりましたよ。ライって呼べばいいんですね」
ライはくすくす笑った。
「それで、ライって妖精なんだよね?」
「それねぇ。うーん、なんだと思う?」
「私が聞いてるんですけど。それに、なんで、私につきまとってるの?」
「なんでだと思う?」
「……だから、聞いてるのは、私です!」
「そうだなぁ、提案なんだけど。しばらく、僕と一緒に行動してみない?」
「は?」
「僕がストランド邸に来たら、マリーと一緒に居させてくれればいいよ。うん。いいね。そうしよう」
「いや、それは嫌っていうか、迷惑っていうか……」
「誰にも気づいてもらえなくて……。ずっと寂しくて。だから、マリーと話すの、すっごく楽しいんだけどなぁ」
上目遣いのライ。……あざとい。あざといのではあるのだが……。
「……もぅ、わかりました! でも、私室への立ち入りは禁止!」
「はははっ。手厳しいな。あっ、もうこんな時間か。じゃ、よろしく」
大笑いしたライは、こちらの事などお構いなしに、言いたいことだけ言って、すーーっと消えてしまう。
はて、いまの会話は一体何だったんだろう。
ライが座っていた場所を眺める。そこには、もう妖精の姿はない。
夢ではないかと、自分の頬をつねってみたが、ただ痛いだけだった。
皆さま、お読みいただきありがとうございます。ブックマーク・評価もありがとうございます。
誤字・脱字報告ありがとうございます!いつも助かっております。




