新入生歓迎会
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いよいよ新入生歓迎会。
マクシミリアン様がヘティ様や皇太子殿下のお供でいないことも多かったけれど、何とか練習出来たと思う。何よりマクシミリアン様と踊るのはやはり楽しかった。
大講堂に集まった新入生と生徒会のメンバー。
講堂の一角にはビュッフェが用意され、どこから手配したのか生演奏まで流れている。まさに夜会さながらの様相を呈していた。
「こういう場を練習台にして社交界に溶け込んでもらおうという意図もあるのですよ」
いつの間にか隣に立っていたコンラート会長が言った。
「そうなのですね。こういう手配も生徒会が? 私たち何もしていないのですが…………」
「どちかと言えば寄付金を出している上位貴族からの押し付けみたいなものでしてね。取捨選択をして構成し周囲の説得をするだけですから」
さらりと凄いことを言うコンラート会長。
フレデリック様より出来る男かも。
「マクシミリアン様と踊られたら僕とも踊ってもらえますか? マリアンヌ嬢」
「えぇ、もちろんです。きっとソフィーのようには踊れないでしょうけど。ふふふっ」
「マリアンヌ嬢、待たせたな」
「マクシミリアン様! ソフィーも! 遅かったですね」
見当たらないと思っていた二人が揃った。いよいよオープニングダンスが始まる。
やだ、急に緊張してきた。
それぞれが定位置に着くと、それまで静かに流れていた演奏が止まり人の話し声もなくなった。
そして、しばしの間を置いてワルツの演奏が始まった。
マクシミリアン様と私は綺麗なホールドを意識してステップを踏み出した。
今日のマクシミリアン様は制服ではなく正装。
白のフロックコートには金糸の縁飾りがあり、光沢のあるブルーのクラバットにはやはり金糸で全体に細かい刺繍が入れられていた。
対する私は薄いクリーム色のドレスに金糸の刺繍が細かく入っており、ハーフアップの髪留めは金細工の物だ。
「マクシミリアン様の瞳の色はブルーだったのですね。もう少し緑に近い色かと思ってました」
「あぁ、今日のマリアンヌ嬢のドレスはアーサー殿下の色じゃないんだな?」
「へ?」
「くくくっ。だって、この前アーサー殿下の色だっただろ?」
あぁ、入学式の日のことか……。
ケイトのお勧めに従っただけなのにっ。
「あれは、ケイトに任せた結果であって……」
「ははははっ」
豪快に笑うマクシミリアン様につられて私も笑う。
「まぁ、あれぐらいいいんじゃないか?」
「そうだといいんですけど」
マクシミリアン様のリードで綺麗にターンが決まる。
やはりマクシミリアン様とは踊りやすい。
「ところでクリスと会うって話なんだが、離宮に来て貰うと目立つだろう? だから学園が一番じゃないかってことになったんだ」
「それもそうですね。またカフェテリアの個室をご準備すればいいでしょうか」
「あぁ、それで頼む。早速で悪いんだが明日の放課後でも大丈夫か?」
「はい。かしこまりました」
私とマクシミリアン様の会話が終わる頃、ちょうど曲も終わった。
ソフィーをエスコートしたコンラート会長がこちらに向かってきた。
「次はパートナーを交代しましょう」
「おっ、本番で交代か? 野心家だな、会長は」
ニヤニヤしながらマクシミリアン様がコンラート会長の肩をポンと叩いた。
「私は別に構いませんわ」
「まぁ、ソフィーは上手だからね…………」
「大丈夫ですよ。2曲目からは参加自由ですからね。それ程注目を浴びることもないでしょう」
自信なんて微塵もないがコンラート会長が心配ありませんよと優しく言ってくれるので、コンラート会長のその言葉は信じてみることにした。
先ほどと同様にホールドを意識する。マクシミリアン様より若干身長が高いことが分かる。
2曲目が始まり、二人でステップを踏み出した。
これは…………。
何だろう不思議な感じがする。
マクシミリアン様とのダンスがどっしりとした安心感の中に伸びやかさがあるものとするならば、コンラート会長とのダンスは草原を吹き抜ける風のようなとでも言えばいいのだろうか。
タンポポの綿毛のようにふわふわとした感覚。それでいて強い風でどこかに飛ばされしまうのではないかという不安感は一切ない。押すでもなく引くでもなく、そこに二人があって当然という一体感があった。
「コンラート会長。不思議な感じがしますね」
「マリアンヌ嬢もそう思う? 僕もなんだよね。まさか無意識に魔法とか使ってないよね」
「小さい頃ならいざ知らず、今は流石に…………」
よくよく見てみれば周囲で踊る人たちは皆こちらを羨望の眼差しで見ている。
へ?
そんなに凄いものを見せているつもりはないのだけど…………。
まっ、いっか。
「でも楽しいですね」
「そうだね。なんか兄上に殺されそうな気がするけれどね」
「はい?」
「いやいや、何でもないよ」
曲が終わるとわあっと歓声が上がった。
私たちはマクシミリアン様たちと合流すべく中央から壁際に移動した。
「何だよ会長。実は二人で練習してたのか?」
「いいえ、全く」
「本当に。息が合うとかそういうレベルではありませんでしたわね。マリーとても綺麗でしたわ」
「あっ、ありがとう。ソフィー」
何はともあれ生徒会の初仕事は無事終えることが出来た。
後はビュッフェを堪能すればいいだけだ。
だって今日は新入生歓迎会で、私は新入生なのだから。
後から行くわというソフィーと別れ、一人ビュッフェコーナーに向かう。
並んでいるお料理はどれも本格的で上位貴族の押し付けに感謝する。
パタパタパタ
あっ、久々に聞く羽音に安心する。
「ライ! 随分と来なかったじゃない?」
「そうか? 最近急な来賓があったりでバタバタしてたからな」
「あぁ、ヘンリエッタ皇女殿下ね。そう言えばストロベリーファームでお会いしたのよ」
「はぁ? 会った? どうして?」
「アーサー様が連れて見えたのよ。その時にご挨拶させて頂いたのよ」
「そっ、そうか」
「それでね、ストロベリーファームのイチゴ。探していたものだったわ。ありがとう」
「いや、役に立てたようで良かったよ」
「今度美味しいお菓子を用意するから来てね」
「あぁ、ありがとう」
ヘティ様のお話はしたけれど、クリス様のお話は控えておいた。
せっかくのお忍びだから、のんびりしていって欲しいものね。
そう言えば明日のお話はどんなことなのかしら? あっ、個室の予約もしなくちゃ。
「ねぇ、ライ! あっちのお料理も食べてみましょう。早くしないとソフィーが来ちゃうわよ」
私が微笑んで振り返れば、ライは顔を赤くして視線を逸らすのだった。
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頑張ったけどダメでしたぁ。感謝




