気になるあの妖精
今日も無事投稿できました。よろしくお願いします。
「起きてください。お嬢様。お嬢様。……もう! やっぱり、すんなりとは起きませんね」
翌朝、イケメン妖精への地味な抵抗に疲れて眠りこけていた私は、ブツブツ言うケイトに起こされた。
何とか朝の支度を済ませて食堂に向かう。
「おはようございます」
「おはよう、マリー」
「おはよう。何事もないようだね」
「おはよう」
みんな、口々に挨拶を返してくれる。ん? 皮肉も混ざっているような……。いや、きっと心配してくれているだけ。気にしない、気にしない。
このファティマ王国で建国以来続いている名門ストランド侯爵家の長女として生まれた私、マリアンヌ・ストランド。14歳。この春、待ちに待った王立学園に入学する。
家族からはマリーの愛称で呼ばれ、可愛がられている。貴族の中には、政略結婚のせいか、家族関係が希薄なところも少なくないと聞く。うちみたいなところは稀なのだろう。ん?でも親友のソフィーのところも家族仲が良かったような。
まぁ、王立学園に入学したら、色々見えてくることもあるだろう。勝手に納得した私は、無駄にキラキラした笑顔を向けるお兄様の隣の席に急いで座った。
今朝のお兄様はサラサラとした濃紺の長髪を肩口あたりで、ゆるりと纏められている。一般的には冷たい印象を与えると言われる灰色の瞳が、甘いお顔をちょっと引き締め男の色気を醸し出しているのだと、貴族令嬢達から騒がれているらしい。
5歳年上のお兄様、ヴィンセント・ストランド。ストランド侯爵家の跡取りであり、王立学園卒業後、同学年だったラインハルト王子の側近として執務室に詰めているお兄様は、いわゆる、優良物件だそうだ。
あっ、ラインハルト王子は昨年立太子されて、今は王太子になられているんだったっけ。
ともかくお兄様は、妹の私から見てもイケメンだし、魔法ばかりか剣の腕も優秀だと思う。願わくば、素敵なお姉さまとなる方を迎えて欲しい……。
ただ、お兄様は私には甘々なので、ぴりっとしている姿が想像しにくい。本当にちゃんとやっているのだろうか。
私は口をもぐもぐさせながら、お兄様の横顔をちらりと見る。それに気が付いたのか、お兄様が小声で話しかけてきた。
「そういえばマリー、またケイトを困らせたんだってね。最近、ケイトのため息がすごいって評判になっているよ」
「うっ」
「何かあるのなら、僕が相談に乗るよ」
叱るでもなく、ふわりと笑顔を向けられて、思わず食べていたパンが喉に詰まりそうになる。実の兄とは言え、朝からイケメンオーラは心臓に悪い。
食事の最中、お父様とお母様から入学の準備の事で色々と助言をもらった。
一応、真剣な顔で聞いておいたけれど、まぁ、お兄様という前例があるわけだし、詳しいお話はお兄様に聞けばいいかなと思っている。
というわけで、食後、忙しくてなかなか時間の合わないお兄様をつかまえて、少し学園のお話をしたかったわけだが、お兄様はお父様の執務室に呼ばれているとのことで、仕方なく部屋に戻る。
ソファーに直行した私はクッションをかかえると、背中を預けた。
私のそんな姿を見るなり、後からついてきたケイトは、休む間なんて与えないぞとばかり、今日の予定をしゃべり出した。
でも、ケイトの話はまったく耳に入ってこなかった。
『あれはいったい何なんだろう』
そう、昨夜の妖精のことが気になってしょうがなかったのだ。
ブックマーク、評価ありがとうございます。読んでいただき感謝です。