生徒会
お越しいただきありがとうございます。
よろしくお願いします。
「ソフィーーーーーーっ」
私は学園に到着するなり、待ち合わせをしていたソフィーを捕まえて、お願いだから一緒に生徒会に入ってと拝み倒した。
きっと嫌がるんだろうな……。
ドキドキしながらソフィーの返事を待つ。
「わかりましたわ。マリーのお願いですもの」
まるで、すぐそこに散歩に行くかのような気安さで、ソフィーが返事をした。
「へっ? いいの?」
「もちろんですわ」
いつもと変わらない笑顔を向けてくれるソフィー。
素晴らしきかな親友。
私がソフィーという味方を手に入れた頃、コンラート会長はマクシミリアン様の教室を訪ねていた。
「マクシミリアン様。おはようございます。それで、マリアンヌ嬢のお気持ちはいかがでしょうか」
「コンラート会長。こちらから伺おうと思ってたんだが。もちろん、マリアンヌ嬢には快諾いただきましたよ」
たった一晩で快諾ですか……。
この方、単に遊学という訳ではなさそうですね。
兄上に進言しておきますか。
「それは良かったです。それでは放課後に生徒会室にご案内差し上げたいのですが、ご都合はいかがでしょうか」
「留学の身ですからね。何もあるはずありませんよ。はははっ。それなら、マリアンヌ嬢を一緒に迎えにいきませんか。ほら、俺だけで誘いに行くと周りが何かとね」
「それは、そうですね。それでは後ほど参ります」
放課後、私のことを迎えにいらしたコンラート会長とマクシミリアン様。
お会いするのは幼い頃以来かも。
随分と大人びて物静かな雰囲気になっている。ただ赤い短髪に燃えるような赤い瞳が変わらずに内に秘める意志を感じさせていた。
生徒会長と時の留学生―――マクシミリアン様。
2人揃って来たものだから、もの凄く目立っている。
ランスロットは遠慮なくこちらを凝視している。
入学式初日に引き続き悪目立ち……。
私は定員オーバーでないといいのですがと前置きし、ソフィーも一緒に入れて頂けないかと頼んでみた。
「他ならぬマリアンヌ嬢のお願いですからね。断りでもした日には兄に殺されますから」
コンラート会長は自虐気味に、はははっと笑った。
さすがコンラート会長の兄フレデリック様―――鬼の副団長。
「それに人手不足であることは事実なのですよ。ですから、ソフィー嬢もよろしくお願いしますね」
外見はフレデリック様に似ていると思っていたけれど、やはり中身は全然違う。
さり気なくソフィー嬢を気遣うあたり、さすが生徒会長になるだけのことはあるわね。
スミュール辺境伯家、人材の層が厚いです。
許可を頂いた私たちは、コンラート会長の案内で生徒会室に向かっている。
もちろん一緒にいるのはマクシミリアン様と親友のソフィーだ。
生徒会室はクラス棟の3階にあるということで、エントランスの階段から上っていく。
生徒会長になる3年生の教室が3階だからという理由で、生徒会室も同じ階に作られたらしい。
生徒会室は大講堂側のエントランスから一番近いところにあった。
中に入ると、ちょっとした会議卓のあるコーナーと、執務机やソファー等が置かれた応接コーナーに分かれているが、職員室同様かなりの広さがとられていることが分かる。
コンラート会長に促されて、マクシミリアン様はソファーに、私とソフィーは長椅子に座る。
「先ずは、生徒会にようこそ!」
思わず3人とも頭を下げた。
「それでね、まぁ、相談なんだけどさ」
執務机の向こうで、口調を変えられたコンラート会長曰く。
そもそもここ最近、王族の入学がないこともあり生徒会の運営自体軽んじられてきた。そのため活動が重視されることがなかったそうだ。現在は生徒会を維持できるギリギリの人数で回されている状態だということだった。
「先ずはマクシミリアン様。生徒会長補佐という名目で、副生徒会長を。それから、マリアンヌ嬢とソフィー嬢には、書記もしくは会計を。いいかな?」
うわっ。相談と言う割に随分と直球できましたね。というか、副生徒会長いないの? いや、いるから生徒会長補佐なのか。
「はっはっはっ。凄いな、ファティマ国は実に面白い! 俺は構いませんよ。裏方でも何でもさせてもらいますよ」
豪快に笑うマクシミリアン様を横目にソフィーに『書記』と「会計』どちらがいいか聞いてみる。
「ソフィーはどっちがいい?」
「そうですわね。コンラート会長、私は会計にいたしますので、マリーは書記でお願いできますでしょうか」
「了解。みんな助かるよ」
えっと、書記に決まりました……。
「それで早速なんだけど、イベントがあるんだよ」
「イベントですか?」
「うん、新入生歓迎会!」
「本来ならば、歓迎される側ですわね」
「そうだね。だから人手が足りてなくてね」
「コンラート会長? 意味がわかりかねますが」
「生徒会がダンスの先陣を切る習わしでね。現在、生徒会に所属している人数は奇数ってことだ」
ここまで会長とソフィーとで交わされる会話を聞いてきたが、どうやら新人歓迎会でダンスを披露することになりそうだ……。
乗り気ではない私をよそに、マクシミリアン様は楽しそうな顔をしてコンラート会長に質問する。
「それで、俺たち3人が加わったことでパートナーは決まるのかな?」
「そうだねぇ。相性もあると思うから、今から軽く踊ってみないかい?」
「は?」
コンラート会長は思わず声を出した私を見て笑いながら言った。
「実は余っているのは俺なんだよね。はははっ」
笑顔で言ってますが、なぜコンラート会長が余っているのか理解不能です。
「ちょうどここに男子2人に女子2人揃っている。踊って確かめるのが一番だろ? さっ、大講堂のダンスフロアを借りてるから行こうか」
そう言って立ち上がったコンラート会長と一緒に私たちは並木道を大講堂に向けて歩いている。帰ろうとしている生徒たちは、逆行する私たちに何事かと振り返る。
それもそうだろう。コンラート会長とマクシミリアン様という学園の有名人が歩いているのだから。私が傍観者なら間違いなく、チラ見ぐらいはしていた。
昨日もマクシミリアン様と一緒だったのに今日も一緒。マクシミリアン様の親衛隊が出来ていなければいいけど。きっと抹殺対象になっていること間違いなしだ。
周囲の視線にぐったりしながら大講堂に入った。
「ソフィー、なんだかごめんね」
「いいのですよ。マリーが気にすることではありませんわ」
「うん、ありがとう。それで、ソフィーは最初に誰と踊る?」
「そうですわね。スミュール辺境伯家は騎士の名門ですから、会長がどれだけ鍛えてらっしゃるか確認したいところですわね」
「……そ、そうなんだ」
ソフィーの意外にしっかりとした理由を聞いて、軽く考えていた自分が恥ずかしくなる。
「さて、どなたからお相手頂けますか?」
「では私からお願いいたしますわ」
「ワルツでいいか? 俺が3拍子をカウントする」
マクシミリアン様がカウントを買って出る。
ソフィーが前に進み出ると、会長は左手を腰に当て優雅にお辞儀をする。そして右手を差し出すとソフィーの手を取り中央へと誘った。
向かい合うと、コンラート会長は再び左手を腰に当てお辞儀をする。ソフィーもそれに合わせて制服の裾を軽くつまんで腰を落とした。
コンラート会長は左手でソフィーの右手を取ると肩より少し高い位置まで横に伸ばし、自分の右手はソフィーの肩甲骨にきっちりと当ててホールドした。
マクシミリアン様がカウントを始める。
流れるように踊り出す二人。息を呑む美しさだ。とても即席のパートナーとは思えなかった。
コンラート会長は身長が高いが軸がぶれていない。ソフィーの言っていたように騎士として訓練してきたからだろうか。
ダンスフロアに花を描いていくかのように踊る二人に、マクシミリアン様がカウントの合間に「やるねぇ」と声にする。
踊り終わった2人は再びお辞儀をするとこちらに戻ってきた。
「ソフィー、凄いわ。とても綺麗だった」
「ありがとう、マリー。そうね、コンラート会長は予想以上に踊り易い相手だったわ」
…………正直、この後に踊るのはつらい。
「今度は俺の番だな。マリアンヌ嬢、お相手して頂けますか?」
私は覚悟を決めてマクシミリアン様の手を取った。
コンラート会長がカウントを始める。
一歩踏み出した瞬間から違った。
あれ? 踊りやすい。
ステップもターンも面白いように決まる。
マクシミリアン様のリードが物凄く上手なのだ。
最近はお兄様としか踊っていなかった。お兄様もとても上手いのだが、ついていくのが大変だった。
うわぁ。ダンスってちゃんと踊れると凄く楽しい。
ここまで伸ばしたいという場所に、ちゃんとマクシミリアン様の手が待っている。
自然と笑みがこぼれる。
「上手ですよ、マリアンヌ嬢」
耳元でマクシミリアン様が囁く。
思わず足がもつれそうになると、マクシミリアン様がステップを変えてフォローしてくれる。
もっと踊っていたいと思うようなダンスだった。
拍手で迎えてくれたコンラート会長は言った。
「いいですね。マクシミリアン様のパートナーはマリアンヌ嬢がいいと思うのですが、ソフィー嬢はどう思われましたか?」
「そうですわね。会長のおっしゃる通りかと」
「それじゃ、来週からこのメンバーで練習を開始しましょう」
どうやら生徒会活動は暫くの間、ダンスがメインとなりそうです。
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