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色×生徒会×王太子

お越しいただきありがとうございます。

よろしくお願いします。

 侯爵邸にキラキラ馬車が到着した。

 お父様がぎっしり詰まった馬車から私を救い出してくれた。


「これはこれは、皆さまお揃いで。夕食のご用意を致しておりますので、サロンにてお話などいかかでしょう」


 お父様、流れるようにご案内されてますが……その夕食、私も同席しないとならないでしょうか?

 それにしても、慌てている様子が微塵もない。

 さすが、お父様。


 男性陣がサロンに向かったので、私は私室に戻り着替えることにした。

 ケイトがテキパキと準備をしてくれる。


「お嬢様、また今日は随分と派手な方をお連れになりましたね」

「あぁ、マクシミリアン様のことね。私が連れ込んだわけじゃ……」

「それでは何が?」

「えっと、面白そうかなって言ってた……」


 本人が言っていたことを伝えただけなのだが、ケイトは怪訝な顔をした。

 そう言えば、ライは?

 辺りを見回したが、パタパタという羽音もしない。

 いつの間にいなくなったのかしら?

 まっ、王城にでも帰ったのかしらね……って、まだイチゴのこと聞いてなかった!


「お嬢様、今日は久々に髪をアップにしましょう」

「えっ? まぁ、ケイトにお任せで」


 ケイトは何度か櫛をいれて艶々になった髪を上機嫌で編み込んでいる。

 鏡に映るケイトの様子を見ていたはずなのだが、髪をキュッと引っ張られて寝ていたことに気が付いた。


「早くこちらに着替えて下さい。お夕食の準備が整ったようですよ」


 ぼーっとした状態でケイトに言われるがままに着替える。

 姿見の前に連れていかれ「いかがですか?」と聞かれて顔を上げた。

 そこに映っていたのは……。

 

 光沢のある薄紫色の布地。

 髪に編み込まれた金色のリボン。


 ―――ケイトっ!?


 これはダメなやつでしょ。


「ケ、ケイト? あの、これは……」

「お美しいですわ、お嬢様」

「いや、あの、着替えないと」

「何を言ってらっしゃるのです。これぐらいの牽制はしておかないと。もうお時間がないのですよ。さっ、参りますよ」

「えっ。牽制って? ねぇ、ケイトってば、ちょっと待って」


 何を牽制するのだろうか?

 それよりも、この格好……。


 ―――薄い紫色の柔らかい髪。

 ―――金色の瞳。


 そう、アーサー様の色だからっ。






 後ろに控えているケイトからの冷たい視線が背中に刺さる。

 仕方なく食堂の扉を開けた。


 さっと見回せば、既に着席している皆さま。

 お父様とお母様、お兄様、アーサー様、そしてマクシミリアン様。

 

 それまで歓談をしていたであろう皆さまが、驚きとも呆れともとれるような顔をして微動だにしない。

 アーサー様だけは目を大きく開いて頬を上気させている。

 

 どう見てもアーサー様大好きアピールの姿をしている自覚があるだけに、どうしていいか分からない。

 顔が熱くなる。


「……あぁ……やっと来たか、マリアンヌ。座りなさい」

「ありがとうございます、お父様……」


 お父様、その一言が無ければ動けなかったかもしれません。

 助かりました。


「はっはっはっ。いやー、妬けますね」


 こういう何とも言えない雰囲気を笑い飛ばす男、マクシミリアン様。

 確かソフィーの誕生日会の時もそうでしたね。

 まぁ、その方がこちらとしても楽になります。


「マリー、えっと、入学おめでとう。今日は綺麗だな」

「ありがとうございます、お兄様。でも、いつもと変わりませんわ」

「そっ、そうか」


 お兄様、動揺し過ぎです。

 『今日もいい天気だな』みたいな、完全に上っ面な台詞になっています。

 

 さてアーサー様の様子はと、ちらりと視線を走らせると、なぜか目が合ってしまう。


「マリー……ありがとう。すごく綺麗だよ」

「アーサー様こそ、とても素敵です」


 潤んだような金色の瞳で見つめられ、伸びやかな低音の声で話しかけられて靡かない女性がいるはずがない。

 観念して、アーサー様をうっとりと眺める。


「ところで、マリアンヌ嬢。生徒会の話はいかがでしょうか。一緒に入って頂けると嬉しいのですが」

「あっ……」


 せっかくアーサー様を堪能していたのに、お父様の前で生徒会の話を持ち出すなんて、卑怯者!


「マリー、生徒会に誘って頂いてるのか? それなら是非、入るべきだな。マクシミリアン様とご一緒なら心強いだろう。それにね、私も大昔、生徒会長をしたんだよ」

「お父様が生徒会長をされたのですか?」

「ええ、そうよ。その時に書記をしていたのが私なの。もの凄く格好良かったんだから。ふふふ」

「お、おいっ」


 お母様は当時を思い出したのか、懐かしそう顔をして笑っている。

 お父様との馴れ初めなのかしら……。あまり聞いたことがなかったから、何だかドキドキした。


「それじゃ、決まりですね。明日、コンラート会長に一緒にお話ししまょう」

「えっ、ちょっと……」


 お兄様は「それはいい」と言って頷いている。

 お父様とお母様も満面の笑み。

 アーサー様だけはちょっと複雑そうな顔をされているけれど、きっと後押ししてくれるはず。


 仕方ないか。


「わかりました。それではマクシミリアン様、宜しくお願いしますわ」







「お嬢様、お休みなさいませ」

「あの、ケイト。……凄く恥ずかしかったけど、ありがとう」


 ケイトは目だけで微笑んで下がっていった。

 嵐のような夕食を終えてベッドに飛び込む。

 あぁ、やっとくつろげる。

 あまりにも色々あり過ぎて1日の出来事とは思えない。


 パタパタパタ。


「ライ! 一体どこに行ってたのよ。知らないうちにいなくなるから」

「俺だって忙しいんだ」

「あら、そう。そう言えば、イチゴの話はどうしたのよ」

「あぁ、あれな。なんか契約しているイチゴ農園から取り寄せてるらしいぞ。王家専属じゃないから、マリーの家でも手に入れられるんじゃないのか?」

「凄い! ありがとう、ライ!」

「あー、どういたしまして」


 ライが頭に手をやっている。少し照れているようだ。ふふふ。


 イチゴの話をしていたら、なんだか甘いものが食べたくなってきた。

 実は先ほどの夕食が余りにも居たたまれなかったので、デザートを割愛してしまったのだ。


「ねぇ、一緒に甘いもの食べない?」

「おっ、いいな。ちょうど疲れてたんだよ」


 気の利くケイトが置いていったティーワゴンを持ってくる。

 やっぱりお菓子もある。

 さすがケイト。


「やっぱり寝る前の甘い物は、最高ね」

「くっくっくっ。太るぞって言って欲しいのか?」

「もーーー。今は言わなくていいのよ」

「しかし、怒られるかと思ったけど平気だな?」

「へっ? 何のことよ」

「いやーー、どうしようかなぁ。言ったら怒るだろ?」

「怒らないわよ!」


 それでもライは渋っている。

 私だってそんなに心が狭いわけじゃないのに。


「じゃあ、言うぞ」

「望むところよ」

「さて、ここはどこでしょう」

「はっ? そんなの私の寝室に決まってるじゃな…………」


 寝室?

 バッと目線を下げると、自分の着ている物を確認した。

 …………夜着。


 大きく息を吸い込む私。


「おい、バカ。ちょっと待て!」




 きゃーーーーーーーーっ。




 と、叫ぶつもりだった……。


 しかし実際には、私の口はラインハルト王太子殿下の大きな手に押さえられていて、一言も発することは出来なかった。


「だ・か・ら、叫ぶのは禁止。どう?」


 こくこく頷く私に、ラインハルト王太子殿下は可笑しそうに笑った。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価もありがとうございます。

とても嬉しいです!

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