見えてるよね
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「ぎゃーーーーーーーーーっ」
私の口から発せられたその声は、これが淑女かというような絶叫だった。
間もなく王立学院に入学する年齢だとはいっても、まだまだ自分は少女だと思っていた。だからこそ、可憐な少女よろしく「きゃーーっ」という、か細い声が出るものだと信じていたのに……。
あまりに逞しい絶叫に自分で自分に驚いてしまい、心臓がバクバクしている。
そのせいで、思わず水差しを取り落としてしまった。
ガシャンという派手な音がして、中の水が床にばらまかれる。部屋中に響いたその音のせいで、更におろおろしていると、バタバタバタと足音がして、勢いよく扉が開かれた。
「お嬢様! マリーお嬢様!」
私をお嬢様と呼ぶ声が扉から入ってくる。お仕着せ姿の彼女、私の専属侍女であるケイトだ。
ケイトは私が幼少の頃からの侍女で、年も近い。そのせいもあって、私はケイトを友達のように思っている。彼女の方はどう思っているんだろう……。
確かに、ケイトは私に対して話す際、敬語を崩したりしないが、それは彼女が職務に忠実だから。それでも多少なりと気安く接してくれていることを思うと、手のかかる友達ぐらいには考えてくれないかなぁ、という願望を抱いている。
「お嬢様! どうされました。お怪我はございませんか」
ケイトの言葉にハッとした私は、慌てて水差しを指した。
「あのぉ、落としてしまって……ごめんね、ケイト」
「お怪我はないんですね。マリー様」
ケイトはちょっと安心したような、それでいて呆れたかのような表情を浮かべている。
「うっ、うん。大丈夫」
「それにしても変な時間に目が覚めたのですね。いつもなら、いくらお声をかけても起きないのに」
チクリと嫌味を言う姿すらも清々しいケイトは、さっさと水差しを拾い上げ、こぼれた水をふき取っていく。実に有能な侍女である。
彼女が片付けている間、私は周りをちらちらと見てみた。
どうやら妖精の姿は消えたみたいだ。取り敢えず、危機は脱出したかしらね。ふぅ。
「何事もなくてよかったです」
いつの間にか片付け終わったケイトは、優しい表情をして私を見たが、直ぐに眉をひそめると、まだ朝までには時間がありますから、もう少しお休みくださいね、と言い残して扉に向かっていく。
「ケイトぉ……」
私はケイトの後ろ姿に手を伸ばし小さく呼びかけてみたが、パタンとドアが閉まるのみであった。
再び一人きりになった私は、またあの妖精に出くわすのは、さすがにまずいと判断し、さっさと寝ることにする。ベッドに潜りこむと、ランプの明かりが消えるように思い浮かべる。
途端に薄暗くなった室内で、私はあっという間に、眠りについたのであった。
『見えてるし、声も聞こえてるね』
明かりの消えた室内で、俺は、パタパタと羽ばたきしながら、顎に手をあてた。
あの反応、見えていることは確かだ。だけど、なぜ、彼女は見えているのか。以前から、俺の姿を追っているような視線に気が付いてはいたが、今日こうして試してみるまで断定できずにいた。だって、見えるのはコレットだけの筈だったのだから……。