表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/45

イチゴタルト

お越しいただきありがとうございます。

よろしくお願いします。

 ここはストランド侯爵家。庭園の一角にある四阿で目の前のティーテーブルに並べれられたお菓子に目を細める。

 ケイトはお茶の準備中だ。久々にゆっくりと出来た気がする。


 考えてみればこのところ色々なことがあり過ぎて落ち着く暇がなかった。



 突然出没するようになった妖精。

 見えないフリを続けて一人空回りしていた。


 行動を共にしようと言った妖精。

 周りに見えてるんじゃないかと一人ハラハラしていた。


 そして、アーサー様………。

 王城で抱きしめられたと認識した時は心臓が飛び出るかと思った。



 本当に目まぐるしかったわね……。

 ふぅっと息を漏らす。


 タイミングを見計らったようにケイトがお茶を注いでくれた。カップに口をつけると花の香りが広がる。

 あら、この香りはこの前………。


「お嬢様。本日の茶葉はアーサー殿下が届けてくださったものです」

「ぶほっ」

 

 思わず吹き出しそうになる私を見て、ケイトは口元を少し緩ませた。そして「ごゆっくりどうぞ」と言って下がっていった。

 そっとしておいてくれるケイトに「ありがとう」とお礼を言った。


 今の季節、四阿の周りにあまり花はない。

 アーサー様から頂いたこのお茶が、代わりに花を咲かせてくれているようで嬉しくなる。


 やわらかい風が吹いた。

 私はカップを置いて空を見上げる。

 少し薄い雲があるだけで透き通るような青い空がどこまでも………。


 パタパタパタ


「あら、ライ。また来たの?」

「またで悪かったな。これ全部食べる気か? 太るぞ」

「ふん。じゃ、ライは食べないのね?」

「そうだなぁ、イチゴタルトかな」

「……」


 はいはいと呟いて、ご所望のイチゴタルトを小さくカットする。最近、ナイフとフォークの扱いが物凄くうまくなった気がする……。

 お皿に置いてあげると、早速、ライは手を伸ばした。


「あっ!! 待って、ライ!」

「何だよ。本当に食べさせない気か?」


 思わず呆れた顔をしてしまう。私ってそんなに意地悪に見えるのだろうか……。


「違うわよ」

「じゃ、何だよ」

「はい、これ」


 私はそばに置いていた包みを開いて小さなカトラリーを見せた。


 ナイフとフォーク、それとスプーンだ。

 

 コック長に頼み込んで出入りの業者に無理を言って作らせたものだった。

 いつも手掴みのライを見て思っていたことがあった。

 まぁ、手掴みの姿も可愛くはあったのだけど、所作が美しいライならカトラリーも上手く扱うのではないかと。


「………作ってくれたのか?」

「こっちの方が食べやすいかも?」

「……マリー。その、なんだ」

「なによ」

「ありがとう……」


 少し赤くなったように見えたライは、やはり私の思っていたとおりの綺麗な所作でイチゴタルトを食べ始めた。


 うーん。でもなんだろう。

 綺麗すぎるな。

 貴族でもこんなに美しい所作の人は限られるような……。


「イチゴタルトうまいな」

「ならよかったわ。でも、もっと美味しいイチゴタルトがあるのよ」

「そうなのか?」


 そう、ストランド侯爵家のイチゴタルトも確かに美味しいんだけれど、王妃様主催のお茶会で食べたイチゴタルト……あれは格別。

 ……ん?

 そういえば、あの時ライも居たんじゃない。


「ねぇ。王家で使用するイチゴって何か特別なのかしら?」

「へっ? 何で」

「ほら、10年前の王妃様主催のお茶会。ライも居たでしょ? あの時に食べたイチゴタルトがそれは絶ぴ」

「マリー!?」


 私が言い終わらないうちに、ライがはじかれたように顔を上げて私の名前を呼んだ。


「なっ、なに? どうしたのよ?」

「……………イ、イチゴタルト、そんなに美味しかったのか?」

「えっ? ええ。その他のお菓子もどれも美味しかったのよ。でも、中でもイチゴタルトは絶品だったわ。それなのにコレット様ってば全然手を付けないじゃない? 余程緊張してるのかと思ったら、いきなりライのこと突っついたでしょ? ライもよろけてて。随分と大胆な方なんだなって見てたのよ。

 あっ。でもコレット様はお亡くなりになられたのよね。王太子殿下もお気の毒に」


 大きく目を見開いてこちらを凝視するライに、そういえばお茶会のことを話すのは初めてだったと気が付く。それにしても何をそんなに啞然としているのか。


「マリー。今の話って他の人にもしたのか?」

「ううん。してないけど?」

「………そうだ。2人だけの秘密にしよっか」

「秘密ねぇ。まっ、別にいいけど。どうせ話したところで心配されるだけでしょ? 妖精が見えましたなんてね」

 

 ふふふっと笑った私をライはなお見つめている。


 何だか恥ずかしくなる……。何でだろ?


 それからライはふっと視線を外し、カトラリーありがとなと小声で言って消えてしまった。


 忙しないわね。

 ライの使ったカトラリーは綺麗に並べて置かれていた。まったく、何なのかしら妖精のくせに。

 でも喜んでくれたみたいでよかった。 うん。

 

 私は一人納得すると、残りのイチゴタルトを口に入れた。


 それにしてもあの王家のイチゴ、何とかして手に入らないものかしら……。

 ライに聞こうと思ってたのに。

 そうだ! アーサー様にお伺いしてみようかしら?


 ……。

 やだ、また顔が熱くなってきた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク・評価もありがとうございます。嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ