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それぞれの思惑

お越しいただきありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 枢機卿ミゲルの使いに呼ばれた俺は、彼の所属する教会を訪れた。俺と同じ貫頭衣を着た男に案内されて客室に通される。

 先客の対応が延びておりますので少しお待ちくださいと言うと、その男は深くお辞儀をして下がっていった。


 今日はいったい何の話なのか。

 留学の件はこの前皇太子殿下に依頼したばかりだ。話ぐらいは通っていると思うが……。


 俺が与えられた簡素な部屋と比べるべくもない豪華な造りの部屋を見渡す。

 まぁ、正式に留学扱いになるまではあそこで過ごすことになるだろう。今はこの部屋でくつろぐのも悪くはない。

 俺は金の装飾が施された椅子にゆっくりと背中を預けた。





 その頃、ミゲルはロートシルト公爵家の使いの者と教会の奥の小さな部屋いた。


 目の前に座る、髪をきっちりと撫でつけた使いの男は慇懃な態度を崩してはいない。だが小さな目は鋭く狡猾な印象だった。

 こういう輩は、たいてい損得勘定で動く。どこかで使えるかもしれないな。

 先ずは聖水が先か……。



「こちらが聖水でございます」

「これ、ですか……」


 渡したガラスの小瓶を怪しげに見つめた男は、布で包み懐にそっと入れると問いかけてきた。


「どれくらいの時間、効力があるのでございましょう」

「さぁ。それは何とも申せませぬな」

「………」

「本来、その場で確認するための聖水でございます。それ以外の使い方など、教会が把握している方がおかしいというものではございませんか? さすれば、教会が有効時間など知るはずもございませんな」


 何らかの答えを持って帰らねば都合が悪いのであろう。

 使いの男は俯いたまま動かない。

 まぁ、あの公爵閣下相手では、気の毒というものか。さて、どう出てくるか。


「……それでは、殿下の聖水の儀式にかかるお時間なら教えていただけますでしょうか」


 ほぉ。頭は悪くないらしい。

 良すぎても困るんだがな……。


「本来、儀式自体も秘匿にされているものですから、お答えする義務はないのでございますよ……。ですが私とて好き好んで嫌がらせをしたい訳ではありませんから。……そうですな、お時間はだいたい30分程度でございます」

「ありがとうございます……枢機卿様のご厚情に感謝いたします」


 にっこり微笑み、扉に向かう使いの男を見送った。

 少しは恩を売ってやったから、今後、多少の頼み事は引き受けてくれるかもしれない。満足した私はお待たせしているネーデルランのカポー公爵子息の元へ急いだ。





「大変お待たせ致しました。カポー様」

「ミゲル枢機卿。いや、別に構わない。どうせやる事なんてないんだからな」

「いえいえ、お呼び立て致しましたのはこちらでございますのに、恐れ入ります」

「それで、何か話があるんだろ」

「はい、留学の件とはまた別になるのでございますが……実は……」


 申し訳なさそうにミゲルは話し出した。

 俺が派遣された先のジェズ教会が、寄付集めのためにとある令嬢の誕生日会に出向くことになっている。

 その会に俺にも出てもらえないかというものだった。


 それにしても、この程度の話をわざわざ枢機卿を通さないとならないとは。

 枢機卿から直接派遣されたという立場は案外目立つな……。

 あの神父もやりにくかろう。

 俺はジェズ教会の神父の柔和な顔を思い浮かべて、内心苦笑した。


「なるべくお若い方に出て頂いた方が集まりがいいもので」

「構わないよ。見目麗しいご婦人方のお相手を務めてくるさ」

「おぉ、ようございました。ジェズ教会の神父には私の方から伝えておきます。その後の指示は、神父からさせていただきますので、よろしくお願いいたします」


 背中に枢機卿の視線を感じつつ、俺は教会の正門に待たせていた馬車に乗り込んだ。


 誕生日会か。

 マリアンヌ嬢はいるだろうか。聞いてみてもよかったかもしれない。

 いや、当日の楽しみにとっておくか。


 俺はニヤリと笑うと、馭者に出発の合図を出した。



お読みいただきありがとうございます。

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