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新たなる可能性

お越しいただきありがとうございます。よろしくお願いいたします

 俺はこれまで集めた情報を父ケルンに報告すべく執務室に訪れていた。


「ヴィー、『寄り添う者』はどうなってる?」


 間もなく開かれるポワティエ侯爵家の誕生日会の出席者は例のお茶会メンバー全員を始め相当数に上る。

 その会場を妖精となった王太子殿下に回っていただけば、一気に探れるのではないかと俺は説明した。


「なるほど。ソフィー嬢の誕生日会か」

「えぇ。公務の調整も済ませていますので、特段問題はないかと。それでロートシルト公爵家の方はいかがです?」

「公爵家が閣下ご本人も含め頻繁に枢機卿とコンタクトを取っていることが分かった」


 枢機卿の名前はミゲル。西区の教会を統括している。

 公爵家はこの御仁に対してかなりの額の寄進をしていることも判明しているとのことだった。


「ただ問題は、公爵家のメリットがよく分からない」

「メリットですか……」

「それと、気になる点がもう一つ。隣国ネーデルランがミゲル枢機卿と接触しているようだ」


 隣国ネーデルランは魔石の産出国として大陸にその名を轟かせている。


 魔石というのは魔獣の核。

 つまり一般的には魔獣の死後に回収されるものである。


 その魔石は魔力の代用品として高値で取引されているが、国民のほとんどが魔力を持つファティマ国での流通量は大したものではない。

 だが多くの国々で魔道具と言えば、そのほとんどは予め魔石を組み込んだものだ。それらの国々にしてみたら魔石の有用性は計り知れない。


 魔獣以外からは稀に過去の地層からも採掘される魔石。

 実はネーデルラン産の魔石は、そのほとんどが採掘によるものだ。国土の西に広がる泥炭層から奇跡的に大量の発掘に成功したことで魔石市場をほぼ独占していた。


 ネーデルランの主要産業はこの魔石の採掘。

 だが近年、採掘量が激減しているとの噂があった。

 

 魔石に頼れなくなったネーデルランが次に考えることは脱、魔石。


 様々な産業で経済の巻き返しを図ろうとしているようだが、一朝一夕で功を奏する施策などそうそうありはしない。となれば代用品ではなく魔力そのものが手に入ればそれが一番楽な話である。


 そこで目を付けたのが魔法に秀でた "ファティマ国" であっても不思議ではない。

 魔力保持率の高さに何か秘密があるのならば、独り占めしていないで共有しろというところだろうか。


「ネーデルランの狙いは魔力の源ですか……」

「あぁ。ファティマ国民の大多数が魔力を持っている理由。それが精霊の加護のおかげならば、結局、話は『担う者』と『寄り添う者』に戻ってくるというわけだ」


 精霊の加護か………。

 随分と振り回されている気がする。


「だからと言って黙ってネーデルランの動きを見ているわけにはいかない。そこでだ、魔石の再利用について研究を進めようと考えている」

「!!」


 そんなことが可能なのか………。直ぐには信じられなかった。

 魔石の魔力を使い果たしたら、ただの石。そう、魔石は消耗品なのだ。

 もし魔石に再度魔力を充填することが出来たならば………。


 きちんと検証された訳ではないから現時点では飽くまでも可能性だがと前置きした父の話によると、魔力の無くなった魔石が魔素溜まりで魔力を戻したという報告があったらしい。


「ファティマ国としてはアーサー殿下にお戻りいただいて、研究の陣頭指揮を執って頂きたいと考えている。そのための体制作りに着手している」

「アーサー殿下に………」

「あぁ………。あの方は極めて優秀だ。それと魔素溜まりの ”北の森” については辺境伯に既に連絡している。あそこを荒らされては元も子もないからな」


 アーサー殿下にとってネーデルランへの留学は、そこに自分の目指す学問があるからというより王太子への道が閉ざされた自身の立場によるところが多かったのだろう。

 だから帝国学院を卒業した後も戻る理由を付けられずアカデミーに進んだのではないのか。


 それが、国の要請でこの国のためになることが許される。


 マリーへの気持ちを自覚された殿下が、マリーのいるファティマ国に堂々といられるチャンスだ。この話に乗らないはずがない。


 しかし王太子殿下はどう思うだろうか。国のために一緒に力を尽くせることを嬉しいと思うのか、それとも………。


「そう言えば、コレット様の事でお耳に入れておきたいことが」


 コレット様の寝室に妖精となった殿下が訪れて起こそうとしたが気が付かなかったこと。それを翌日伝えたところ酷く狼狽したことを話す。


「なるほど、睡眠中に寝室にね……。だが勝手に入られたのなら、驚かれるのも無理なかったのではないか?」

「そうなのですが、王太子殿下曰く真っ青になられたと……」

「真っ青に……か。確かに違和感があるね」

「しかもその日以来コレット様はかなり神経過敏だったようなのです」


 机に肘をついて組んだ両手の上に顎を乗せていた父上は、何か思い当たることがあったのか顔を上げた。


「……ヴィー。至急、王太子殿下に確認して欲しいことがある。それとポワティエ侯爵家の誕生日会だが、念のため騎士団に警備させるように手配してくれ」






 もし父の仮定が当たっていれば、コレット様が偽物だったと確定するだろう。

 そうなればロートシルト公爵家はただでは済まない。背後で糸を引いていたミゲル枢機卿も同罪だ。


 きっと彼らも必死になって足掻くはずだ。

 本物を消して偽物を本物にすればいい。


 そう彼らは知らないのだ。

 本物が消えたら『担う者』は妖精になることが出来ないということを。


 だからこそ、彼らには本物が邪魔でしかない。


 ポワティエ侯爵家の誕生日会。

 我々にとって本物を探せる絶好の機会であるが、彼らにとっても本物を消す千載一遇の好機なのだ。

今日もお読みいただきありがとうございます。

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