ライとライ
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王城に到着した私をアーサー様が直々に出迎えてくれた。
「殿下!」
「マリー、久しぶりだね。手紙ありがとう」
「はい、殿下。本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」
久々のアーサー様は……予想以上に素敵だった。大人の色気みたいなものを感じて顔が熱くなる。
ライもイケメンではあるのだが、所詮、妖精だし。どのみち今日ライは来ないと言っていたから、気兼ねなくアーサー様を堪能しよう。
「ちょっと会わないうちに、すっかりレディになったね。凄く綺麗だよ」
「もう、恥ずかしいです……殿下」
「その殿下っていうのは、何とかならない? 今まで通りアーサーがいいな」
「じゃ、アーサー様。でも、様は外しませんからね」
「ふふ、いいことにしようか」
「はい、はい、ストーーップ。お二人さん、俺がいるのを忘れてませんか」
「フレデリック。少し、空気を読む気はないのかな」
「えーーー、そう来ますか。殿下は俺には冷たいですよね」
赤い短髪をガシガシとかいているのは、アーサー様の側近である辺境伯子息のフレデリック様である。辺境伯の領地は、あの北の森に接している。そう、泉でアーサー様にお会い出来たのは、アーサー様がフレデリック様の領地を訪れていたからだったのだ。あの後、辺境伯の馬車で送ってもらって以来、アーサー様とフレデリック様に可愛がってもらっている。
「フレデリック様も、相変わらずですね」
「変わらず何だって言うんだよ」
「まぁまぁ、フレデリック。それより隣国からのお菓子があるんだ。お茶にしよう」
城の南側に広がる庭園の一角に、こじんまりとした四阿がある。主に王族専用のその場所を贅沢に使わせてもらえるのも、アーサー様がいるからに他ならない。侍女が手早く支度を整え下がっていった。
「このお茶は、隣国特有のもので花の香りがするんだよ」
「わっ、本当ですね。なんだか花畑の中にいるみたいです」
泉に群生していた花を思い出していると、小さく白い花びらが四阿の周りを舞い始めた。
「わっ、また無詠唱で発動しちゃって。ほんと、凄いね。マリー嬢は」
「マリー、それは泉の花だね」
「さすがアーサー様!」
「僕たちが出会った記念の花だから……」
「何デレてるんですか、殿下」
「い、いや、別に」
「アーサー様も久々に魔法を見せて下さいませんか?」
「マリーのお願いじゃ断れないね」
にっこり微笑まれたアーサー様が指をパチンとならすと、3人のティーカップの中からそれぞれ蝶が出てきて、まだ舞い続けていた花びらに合わせて、ふわふわと飛び始めた。
「すてき……」
「えっ、殿下ってば、そういう魔法も使えたんですね」
「フレデリック様はアーサー様を何だと思ってらっしゃるんですか」
「いやー、だって殿下といえば豪快な魔法を、こう、バーーーンみたいな」
「ったく、なんだ、そのバーーーンって」
「すみません。俺の語彙力なんてこんなものですよ。はははっ」
気の置けない人たちとの時間はあっという間に過ぎていく。そろそろ終わりが近づくかという頃、アーサー様が私に小さな箱を手渡した。
「マリー。少し早いけど、王立学園入学おめでとう。これは、お祝い」
「えっ。わざわざご用意いただいたのですか? 嬉しい! 開けてみても?」
「あぁ」
それは殿下の瞳のような金色の小さな石が、いくつも埋め込まれたブレスレットだった。
「わぁ、なんて綺麗な色。こんな高価な物……」
「大丈夫。その石は粒も小さいし、マリーが気にするほど高価なものじゃないから」
「ありがとうございます!」
早速、アーサー様が腕に付けてくれた。ゆっくりと手を動かしてブレスレットを眺める。思っていた以上に日の光を反射して輝いている……。
「ブレスレットには通信の魔法を付与してあるんだ。念じてくれれば、僕に通じるから。何か困ったことがあれば、遠慮しないで使って」
「魔法の付与までしてくださったのですね。大切にします!」
「えーーーっと、それで俺には何かないんですか」
「なんでフレデリックにやる必要があるんだ」
「まぁ確かに、誕生日でもなんでもないですけどね。くそっ。何か妬けるな」
「ふふふ。お二人はいつも仲がいいですね。憧れます」
「は?」
「くっくっくっ。まぁ、マリーらしいかな」
さて、お茶会はお開きとなり、騎士団の訓練に行くフレデリック様とは四阿でお別れした。見送るからというアーサー様と一緒に王宮を移動していると、王太子宮から続く回廊の中程で話し込んでいる2人の人物が目に入った。
ん? 1人はお兄様みたいだけど、もう1人は誰だったっけ……。
私がそちらの方向に目を向けていると、アーサー様も気づかれその人物に声をかけた。
「やぁ、ライ」
んっ? ライ!?
最近どうしても過剰に反応してしまう、その響き……。
「兄上!」
アーサー様を兄上?
ということは王太子殿下のラインハルト様だろうか? その声の主は軽く手を挙げて私たちの方へ駆け寄ってきた。
金髪碧眼の美丈夫……。無駄にキラキラしてるなぁ。
そして後ろから追い着いてきたのは、やはりお兄様だ。
「アーサー殿下、ご無沙汰しております。マリー、もうお茶は済んだのか?」
お兄様はアーサー様への挨拶もそこそこに、満面の笑みで私の頭をポンポンとする。それを横で見ていた金髪碧眼様は、いたずらそうな目をこちらに向けた。
「へぇ。こちらがヴィーの麗しの妹君、マリー嬢か」
勝手に愛称呼びして、ぐいぐいと近寄ってくる金髪碧眼様に僅かにたじろぐ。
その妙な押しの強さに一瞬、妖精ライの姿が頭をよぎる……。まさかねぇ。
困惑気味な私を察して、アーサー様が紹介してくれた。
「ライ、初対面の女性にそんなに近寄るのは失礼だよ。私の弟のラインハルトだ。近しい者はライと呼んでる」
「失礼しました。ラインハルトです。よろしく、マリー。今度ヴィーと一緒に遊びにおいで」
「はぁ……」
金髪碧眼様、もといラインハルト様は押しが強い……。
やはりこの不毛な会話に覚えが……。
私の思考はぐるぐると渦を巻いていく。
「マリー、ご挨拶しないと」
お兄様に耳打ちされて我に返った私は、急いでカーテシーをした。
「も、申し訳ございません。ストランド侯爵家のマリアンヌと申します」
「そんなに畏まらなくてもいいよ」
軽くウインクしたラインハルト殿下は、私の肩にポンと手を置いた。
と、その瞬間、私の手がすっと引っ張られてアーサー様の腕の中に閉じ込められた。
「へっ?」
思わず素っとん狂な声を出してしまう。
ラインハルト殿下は目を大きく見開き立ち尽くし、傍らのお兄様は口をハクハクさせて頭を抱えている。
次第に自分の身に起きていることを理解すると、顔が熱くなっていくのがわかる。
うっそーーーーーーっ。
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