見えてる?
カクヨムさんで改訂版初公開中です。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413988087435
何か夢を見ていた気がする。
目を開けてみれば……まだ薄暗い。変な時間に目が覚めてしまったみたいだ。
天蓋付きの大きなベッドの上でむくり、と起き上がった私は、小さな明かりを思い浮かべる。
私の魔法に反応し、ベッドサイドのランプがぽーっと灯る。
魔法大国であるファティマ国では、人々は大なり小なり、何かしらの魔法を使い生活している。その為、魔法を利用した魔道具の開発は著しく、先ほどのランプを始め、炊事、洗濯、お風呂等々、様々な場面で活躍する魔道具は、枚挙にいとまがない。これらの魔道具は微量の魔法を流すことで使用できる。
一般的に魔法の発動は、その対象に対して詠唱をもって行う。だが、魔法に長けたものは、無詠唱でも行うことが出来ると言われている。まぁ、無詠唱で出来るような人は、そんなに多くはないのだが。
実は、私はそんな多くない人の一人であったりする。そう、無詠唱で魔法が使える。でも、人前では隠しており、詠唱してみせるようにしている。
だって説明が面倒だし……。
そういう訳で、自分だけの時は無詠唱で魔法の発動をさせている。
だっていちいち詠唱するのは面倒だし……。
そう、私は面倒なことが苦手なだけなのだ。そんないつもの言い訳を、ちろりと心に浮かべながら、そーっとベッドから降りた。軽く伸びをしてサイドテーブルの水差しに手をかける。
その時、ふわりと目の前を横切るものがあった。
「……」
残念ながら寝起きの私の頭はまだ働いていない。
そのまま、ぼーーーっとしていると、先ほどのそれが徐々に形をなす。
掌ぐらいの大きさで、羽の生えた……妖精。
で、出たっ、妖精!
最近、屋敷の内外でも頻繁に目撃するようになった妖精。柔らかそうな金髪、上位貴族の子息ですか、というような格好、そして私のお兄様も霞むかというぐらいの美丈夫である。
確かに見目麗しい。
でも、私は何としても、その妖精との遭遇を避けている。
だって、面倒だから……
そんな私の気も知らず、その妖精は羽をパタパタさせて、私の顔先にやってこようとしている。
私は咄嗟に顔を背けて、その妖精と目を合わせないようにする。
なんとしても、見えてないふりを貫かねば!そう、ここ10年、私は見えないフリを続けているのだ。今更、引き下がるなんてことは出来ない。
しかし、そんな私の決意も空しく、その妖精は、私が顔を背けた方向に回り込んでくる。
私は、再び、逆方向に顔を背ける。
「……ねぇ、絶対見えているよね」
「えっ」
なんと、妖精が声を発した。
おかけで驚いた私は、うっかり反応してしまっていた。思わず妖精を見そうになるが、ぐっと堪える。
それにしても、声まで格好いい……。
いやいや、そんなことに関心してる場合ではなかった。私は首をぶるんぶるんと横に振った。
でも、今まで一度も声を発したことなんかなかったのに、なんで……。
今まで、目さえ合わせなければ、後で何とでも言い訳できると頑張っていたけれど、さすがに声を出してしまっては厳しい……かも?
パタパタパタ。依然として、羽音が聞こえている。
こうなったら最終手段に出るしかない。
私は大きく息を吸い込んだ。
「ぎゃーーーーーーーーーっ」