01 運命 その2
春。それは出会いと別れの季節。小学生六年生は中学一年生に、中学三年生は高校一年生に。高校三年生は大学一年生に、大学四年生は就職して社会人に。 そんなことがたくさん起きるのが春という季節なのだ。
そして、ここにその恩恵を受けるものが居た。彼の名前は比屋定レン。夜のように暗い髪色のつんつん頭で、制服を着崩しているのが彼だ。レンは自分の高校生の制服に袖を通したとき、ものすごく興奮をした。これから自分は高校生になるのだと、これからは大人の仲間入りするのだと。そんなことを考えていると、部屋にノック音が響いた。
「……母さん? どうしたのさ」
「どうしたのさ、じゃないわよ⁉ もう登校しないと間に合わないわよ⁉」
母親にそういわれ、自分の部屋にある電子時計を見ると、八時を回っていた。レンはそれに気づくと、大急ぎで部屋から出て行った。
「やべぇ⁉ 入学早々から遅刻なんて、ボッチになる未来しか見えねぇぞ⁉ 早く行かねえと⁉」
「ちょっと⁉ 朝ごはんは⁉」
「要らない! 食ってる暇ないし! 行ってきます!」
「ちょっと! レン! ……気をつけなさいよ!」
レンはそれに返事をすると、すぐ見えなくなってしまった。
「少し落ち着けばいいのに、これも貴女の血かしら、姉さん。」
レンの通学は徒歩だ。レンが入学する高校は自転車通学はNGという今時にしては珍しい高校なのだ。だからこそ、レンはこんなに急いでいるのだ。
「はっはっはっ…… このペースならすぐに着く! これは入学早々の遅刻にならないで済みそうだぜ!」
と、レンは足を速く動かし、道を走っていった。ちょくちょく人にぶつかりそうになるが、レンはまるでよけるのが当たり前とでもいうかのように避けて行った。次々と避けて行くレンは前を見ていたが、何かにぶつかってしまった。
ぶつかったので、その場で転倒してしまう。早く走っていたレンはその衝撃をもろに受けた。レンとぶつかった人は尻餅をついたが、目立ったケガは無さそうだった。
「いたた…… 気をつけろよ、ここ人が多いんだか」
ぶつかったのは女の子だった。自分より二個下だ。とレンは思った。そして、ぶつかった衝撃で足が開いて、女の子の下着が見えていたのだ。それを見てしまったレンはとっさに視線をずらす。女の子はなぜ視線をずらされたのか気になり、自分の今の状態を確認すると、すぐ赤面し、スカートの前の部分を持ち、すぐ隠した。
「……た。」
「ええ⁉ 見てない、見てないって! ホントだ!」
「ならなんでそんなに顔が赤いのよ⁉ 見てないならそんな顔しないでしょ!?」
「誰が見るか! そんなウサギパンツ……!」
「ほら見てる! やっぱり嘘ついてた! お巡りさん!ここに変態が!」
「やめろおおおおおお⁉ それは社会的に死ぬ⁉」
「乙女の下着を! しかも嫁入り前の女の下着を見るなんてありえない!だから死んで! いや! 今すぐここで屍を晒しなさい⁉」
「言ってることが無茶苦茶だぞ⁉」
と、レンは出会い頭、女の子の下着を見てしまった事は本当に申し訳ないと思っているが、今は学校最優先と思った。
「それじゃあ俺は学校、というか入学式があるからもう行く! じゃあな!」
と、女の子が追い付けないスピードで逃げて行った。もう会わないようにしたいと、レンは心の中で思った。