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いや待て待て、俺は目の前にいるこの女に面識はないぞ。誰だこの女は。

そして俺は告白なんぞしていない。断じてしていない。正直さにおいては生まれたての白鳥の翼のような清らかさを自負している俺が嘘をつくようなことは言わないからな。この女に告白した覚えなぞ、真冬の北海道にゴキブリが出現する可能性よりもない。


何より、告白などという無駄なモーションは己の信念に反する。付き合って一緒に食事して映画見て夜の夜景を見ながらラブシチュエーション、なんて金がかかるだけの代物、無駄にしか思えん。俺にとっては恋愛は無駄な所業なのである。いやモテないとかそういう話ではなくだな、おいそこ、冷ややかな目を向けるな。


ってなわけで弁護士不在の中でそこそこの証言を集めて無罪放免を主張したい俺だが、そもそも告白した覚えなどない勘違い裁判である。ついに夢遊病にでもかかってしまったか、俺。


とにかくこの一方通行を打破すべく、俺も口を開かなければいけない。


「いや待ってくれ。俺は君に告白した覚えなんてないぞ。そもそも君を知らない。人違いじゃないのか?」


「一週間前、夕暮れ映えるこの時間にこの場所で虫唾が走るくらいロマンチックに告白してきたのはあなたじゃなかった?バッグにそのヘンテコな赤いキーホルダーを付けたアホ毛男なんてこの学校に二人以上いるとは思えないのだけど。あんな恥ずかしい告白文句、生きてる内に聞くなんて思ってもみなかったわ。」


必要以上に毒を吐く女だ。俺の心は飴細工よりも脆いのだから、そのへんにしとかないとここで泣き崩れても知らないぜ。


「いや待てよ。本当にしてないんだって。」


「じゃあ証拠を見せてちょうだい。似てる人は世界に三人いるというけれど、その一人を拉致してくる以外に何か良い案はある?」


「ぐ……」


言い返せない。俺が告白した理由は無いが、告白していないという証拠もないのだ。


「それは本当に俺なんだな?」


「えぇそうよ。モテなさそうなあなたならいかにもああいうことしそうじゃない。」


三珠綾乃と名乗る彼女は、どうやら本当の本当にに俺に告白されたらしい。一週間前に。

俺は覚えがないのだが、言い返せるだけの反論材料もないし、初対面の相手にこれだけの口が聞けるということは、三珠綾乃はもしや本当に俺に会っているのかもしれない。

世界が狂ったのでなければ、17年生きてきた俺の精神の歯車がとうとう狂い始めたのかもしれない。腕の良い歯車整備士が知り合いにいればご紹介願いたい。巻き時計修理士でも良いぞ。


というか、最初の一言目で薄々勘づいていたが、この女は礼儀の意識が薄い節がある。ここへ来たのだって、帰る途中に手紙が下駄箱に入っていたからであり、それは差出人不明のピンク色の誘いだった。


『今日放課後、得別棟の屋上に来てちょうだい。一人で。内容は、分かっているわね?』


と、こう書かれていた。

はて、内容とは?差出人は?一切が不明な手紙だったが、文字だけはいやに達筆であったな。

正直のところ、行こうかどうか迷っていた。こんなものにホイホイ着いて行って何か得があるわけでもないし、無駄に期待した挙げ句、ドッキリでした~なんて言われた日には俺はその場で身投げを考えるぞ。丁度屋上だしな。

だが約束をすっぽかすほど俺は薄情ではないつもりである。もっとも、これは一方的な決め付けであって俺は約束した覚えなどないのだが。俺の中で己のモットーと人情の化身が激しい鍔迫り合いを展開した果てに立っていたのは所々に切傷を負い、ギリギリで勝利した人情の方であった。


そんなわけでこの手紙の主に会いに行くべく、帰りたがっている足を回れ右して屋上へやってきたってわけさ。流石に人に手紙でお願いされて無視するほど俺の良心は腐ってなかったってことだな。


ところがそうやってやって来た俺の目の前で今展開されているのは、健気な少女が精一杯振り絞って伝えた愛の告白ではなく、勝ち気な女が一方的に俺をフるという意味不明のイジメ展開だったわけだ。籠城中の楠木正成に煮えきった糞を投げつけられた兵士よりびっくりだぜ全く。


「つまり、一週間前に俺に告白されたその返事を伝えるために俺を呼び出したってわけか。」


「そうよ。」


何か文句でもある?と言いたげなその目を見ていると、俺も段々腹が立ってきた。なんせ告白などしてないのである。男としてこの不名誉は撤回しなければなるまい。濡れ衣もいいところで、濡れすぎて逆に燃えてしまっている。何言ってるかわからないけどな。

とにかく、この誤解は解かねばなるまい。後の平穏な生活を維持するたにもな。あくまで俺は紳士的に弁明をした。


「あの、お言葉だが俺は断じて告白などしていない。俺は記憶にないほど告白して回る趣味などないし、こう言っちゃあれだが告白というものはしたことがない。何とか誤解を分かってくれないか。」


だが黒髪少女は引き下がることなく、


「あ、そう。あくまであなたは告白した覚えがないと言うのね。大方告白した日の夜にあんなセリフを発した自分が恥ずかしくなってセルフ記憶喪失を引き起こしたってところでしょうね。とにかく、私は自分の行動に責任を持たない人が嫌いなの。あなたは告白を無かったことにして責任逃れするってことね?さっきも言ったけどそんなものはなしにしたいのなら証拠を提示してちょうだい。」


こいつは意地でも告白をあったことにしたいのか。プライドが高そうなだけのことはあるな。だが俺だって負けてはいない。リシュリューの1/3くらいのプライドは俺だって持っているぞ。ここは男として立ち向かわねばなるまい。


「分かった。証拠があればいいんだな?見つけてきてやるから数日間猶予をくれ。情状酌量、いや、無罪を求刑する。」


勢いで言ってしまった。まぁ俺が告白したのでないから、探せば何かしら俺を嵌めようとした奴のボロは出てくるだろうと楽観的に見ていた。しかし事態はそこまで単純ではなかったのである。これから俺はあちこちを飛び回ることになるのだが、さてどこを飛び回るのだろうね。このときはまだ想像もしなかった。プロのマジシャンでも分からないトリックが一介の男子高校生に分かるかってんだよおい……

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