流れ星にアイロニーを込めて
僕は男なのに男が好きだった。
自分が男を好きなると気付いたのは小学校4年生くらいの時であった。クラスの皆は好きな女子の話をひっそりしている中僕は僕で今はもう名前も顔も覚えていない男の子を好きになっていた。
ただ、その想いは絶対に伝えてはならないものだと何となくだがその時の僕は理解していた。男は女を好きになる、女は男を好きになる、それは当たり前のことだから。
それから僕は何度も何度も男の人を好きになった。時にはちゃんと女の人を愛そうと努力した時もあったが、結局上手くいかず振られてしまうのだった。
僕はこれから誰からも愛されることなどないのだろうか、僕が抱いている好きと思う気持ちは誰にも受け入れてもらえないままなのだろうか。
男が男を好きになることはだめなことなのだろうか。
世の中は昔ほどは同性愛者に対して風当たりは強くはないとテレビの中で誰かが言っていた。しかし、僕は思う。まだまだ偏見はなくなっていない。だって僕は男が好きだなんて口が裂けても公言できない。
言えない、自分が好きな人の話を誰にも。
そしていつかは孫をと期待している両親に顔を合わせるのが辛い。年々そのプレッシャーは強くなっている。
生きづらい。
もうずっと前から僕は息が上手く吸えない、呼吸が下手だ。
今日僕は2年前から恋をしていた同僚の結婚式に参加した。
結婚式は素晴らしいものだった。おめでたい、新しい夫婦の門出だ。祝福しよう、そう思っていた。
だけども僕の心は明るくない、幸せそうなふたりを見ていると胸が締め付けられて鼻の奥が痛くて、涙が滲んだ。
もし、僕が女だったら彼の隣にいることは出来たのだろうか。また、彼が女であれば僕は…
どうだっていいんだ、もう。
まだまだネオンの輝く街を僕は覚束無い足取りで歩く。
ふと空を見上げるとこの街の人間ごと覆い尽くすかのような真っ暗な夜空が広がっていた。星は見えない、月も見えなかった。
星も月も消えてしまえ、僕は真っ暗な夜空に吸い込まれて消えたい。消えてしまいたかった。
フラフラと歩いていると誰かにぶつかってしまい僕は硬いアスファルトの上に尻もちをつく。
「大丈夫ですか?」
低い、男の声が頭上から聞こえてきたが僕は無視してただ座り込んでいた。なんだかとても惨めな気持ちだった。
「大丈夫、です」
僕の声は固くて、抑揚がなくて自分が出した声のはずなのに他人の声を聞いているようだった。
地面に座り込んで俯いたままでいるしかない自分が酷く惨めに思えた。
ただ、普通の幸せをつかみたいだけなのだ。普通に恋をして、幸せな日常を送りたい。そう望むことは決して悪いことではないはずなのに。
どうしてこんなにも難しいのだろうか。
「あの…」
見知らぬ人を困らせてしまっている、分かってはいたが涙が止まらなかった。きっと疲れているんだろう、酔っているんだろう。
目の前にすっと手が差し伸べられる。ふと上をむくと心配そうな顔をしている男が視界に入った。
「立てますか?」
差し伸べられた手に何の気なしに自分の手を重ねてみる。
きっとこの人も僕が男を好きになると知ったらこの手を咄嗟に話すだろうか。なんてひねくれたことを考えてしまう。
「ありがとうございます」
掠れた声でそう言うと男はにこりと笑った。
「いえいえ、それじゃ」
立ち去る背中を見送る。辛いことはあったが先程の他人の親切と屈託のない笑顔になんだか励まされたような気がした。
夜空を見あげれば星が輝いている、月が街を照らしている。
夜空に一筋の光の線が走る、流れ星だ。
流れ星なんかに願い事をするほど子供でもない、だから僕は流れ星に誓う。
価値観はきっと変わらないだろう。でも変わらないその中で僕は幸せになってやる。