ファーストコンタクト
□巴茅市左神区の大学内
「いやいや、だからそんなの噂じゃんか」
「凛太郎ちゃんまだその話してんの?
あんまりしつこいと友達なくしちゃうよ?」
「だから嘘じゃねぇんだって!俺は見たんだよあのバケモノを!」
本当のことを話しているのに、と染めた金髪を掻く青年、楠原凛太郎は自分の話を信じようとしない学友達に苛立たしげな視線を向ける。
「そんなマジな目でみないでよ、バケモノってあれでしょ?えっとなんだっけ、グリ...グラ...あー」
わざとらしく忘れた様な素振りに苛立ちを抑えながらも俺は答える
「...グリムだろ」
「あーそれそれ、人通りの少ない所に現れてなんの目的もなく人を襲うってやつ?
まず人通り少ないって情報が怪しさ満載じゃない?」
「でも、嘘じゃねえ、あのテロは怪我人だけじゃねえんだ。行方不明者が何人も出てる」
「あーそうらしいね、凛太郎の友達も行方不明なんだっけ?アタシらも探すの手伝ったけど半年たった今でも情報ゼロじゃん、それってホントに」
「仁科、その先はダメだろ」
俺の話に肯定的じゃない倉垣仁科が喋っている途中、それを遮る声が後ろから響く
「あーダっちゃん...そうだね、ゴメン凛太郎今のは失言だったわ」
「凛太郎、仁科も悪気があるわけじゃないんだ。
俺達も心配はしてるんだ。もちろん協力もする、だからそう気を立てないでくれ、な?」
ダッちゃんと呼ばれる男、本木大輔がそう言うので俺も興奮しすぎたと冷静になる。
「...あぁ、わるい。...先帰るわ」
俺は一人大学の外へと歩き出した。
「ねぇダっちゃん、凛太郎あれマジで言ってる思う?」
「俺も信じてるわけじゃないさ、でも爆破テロって事件なのに行方不明者は実際出てる。全部が全部完全に嘘とは言いきれない。それにあいつは嘘つくようなやつじゃないしな」
「まぁー確かにそうなんだけどさー」
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大学からバイト先へ自転車で向かい、シフト上がりで家に帰りながら俺は半年前の事件のことを思い出していた。
モールで起きた爆発、悲鳴が飛び交った。
人を襲う複数の怪物たち、あれが間違いのはずじゃない。怯え逃げ惑う途中で奴らは姿を消していた。何人かの人々と共に。
スマホを取り出し画像フォルダの中の1枚を開く
写っているのは高校の学生服を着た俺と明るく笑う青年─幼馴染の志島純也だ。
「純也...どこいったんだよ」
あの日俺は純也が彼女にプレゼントを贈りたいという希望の元2人でモールに来ていた。
無事プレゼント選びも終わり帰ろうとしていた時、あの事件に遭ってしまった。
怪物達がみんなを襲い逃げ惑う中、俺と純也ははぐれてしまった。そして救急隊が駆けつけ救助された後、被害者達の何人かが、純也がいなくなったことを知った。
もちろん探した、張り紙も作って仁科や大輔、大学内の友人達にも手伝ってもらった。
結果として純也は見つからなかった。
情報1つすらなかった。
最初は警察も一緒に探してくれた。だけど成果が出なかったことにより目撃情報を求める張り紙だけを残し捜査を中断してしまった。
だけど俺はまだ諦めていない。
絶対に純也を、俺の親友を探してみせる。
そう思いながら俺は今日もバイト終わりの帰路を遠回りしながら色々な場所を探し歩いている。
「変わらず成果なしか...いや、今度の休みはもっと遠いところも、ん?」
今日の所は諦め家に帰ろうと自転車のスタンドに足を掛けた直後視界の端が光った。気のせいかと光った気がする建物と建物の間を数秒凝視すると
「気のせいじゃない...」
再度淡く光った。
なんだと思い自転車を置き何気なく光のする建物の間を通っていく。通った先は路地となっていて何故か壁や地面が小さく燃えていた。
「おいなんだよこれ、近所迷惑とかのレベルじゃないだろ。火事になるぞ」
どこかの不良がやったイタズラだろうか、このご時世にそんなしょうもないことするとはと思いながら俺は炎を踏んで消したり上着で消そうと試みる。幸い炎はすぐに鎮火できた。
このあたりは少し危ないな。警察に相談してこの辺の巡回もしてもらった方がいいかもしれない。
そう思った直後、また後ろでピカッと光った。
光は淡く小さいだが徐々に大きくなり背中がどんどんと熱くなっていく。堪らず振り返るとそこには手のひら代の炎があり、その時何故か本能的に危機を察知した俺は後ろにダイブロールした。
直後、俺のさっきまでいた場所に炎が飛んでいき着弾すると同時に弾けメラメラと燃え出す。
「っんだよこれ、おい!危ねぇだ...あ、」
炎を飛ばした犯人を見た時俺は震えた。
それは人間ではなかった。
いや手足はあり体格は人間と同じだ。だがその外見が違う。黒く無数のラインが走った体にくすんだ銅色のパイプがいくつも生えている。
パイプからは黒い煙と炎のような光が時折噴出され、その顔面にも小さなパイプが生えている黒いラインで覆われた顔の奥には機械的な白い目が見える。
そしてその風貌は俺の記憶をフラッシュバックさせた。
あのモールに現れた奴らに似ている。
「怪物っ!...」
なぜ、どうして、目の前の出来事に頭が混乱する。だが、今そんなことよりも逃げなければいけない。
見覚えのある怪物を前に俺はいつかの恐怖を覚え全力で駆け出す。
怪物は俺を捕捉したようで追跡を始める。
「な、なんなんだよ、なんであの怪物がこんな所に、何で、うあっ!?」
必死に逃げる俺を怪物は追いかける。
だがその距離はだんだんと狭まっていく。
想定よりずっと脚の早い怪物は追いつくや否や俺の後頭部めがけて無機質な黒いラインで形成された鋭い腕を振るう。
俺は屈むことで間一髪で回避し思わず背負っていたリュックを怪物に投げつける。
驚いたのか一瞬怪物が怯んだ隙に来た場所を抜け自転車に跨り人気の少ない道へ走り出す。
だが俺を怪物は通りを抜け俺を再度捕捉すると胴体から生えたパイプから炎を灯し飛ばしてくる。
「うおぁっ!?」
避けられず後輪に着弾し小さく爆発すると同時に俺は自転車から投げ飛ばされる。
「がっ!」
コンクリートの上を勢いよく転がり、痛みに呻く俺の前に煙を出しながら黒い怪物が歩み寄る。
怪物は再び炎を灯し俺めがけて撃とうとしている。
俺は死を悟った。突然の恐怖に、迫る死の恐怖に動けない。
ダメだと思った。その時
「!?」
怪物の灯した炎がパイプごと切られる。
怪物は驚いたのか痛みを感じたのか後ろによろける。
何が起こったのかと思考が混乱していると
「おいあんた、大丈夫か」
突如目の前に手が差し伸べられた。
顔を上げるとそこには若い男が立っていた。
170センチほどの体格、好青年を感じさせるような若い顔に黒い髪の男の差し出した手に俺は手を伸ばす。男はにっと微笑み俺の手を取り引っ張りあげる。見ると男は反対側の手に見たことの無いものを持っていた。
握っているのは黒いグリップでその先にはギアやら青白く光るラインがついた白く長くのびた機械的な刀身、いわゆる片手剣のようなもの。
「ちょっと怖い思いしただろうけど、もう大丈夫だ。あんたはどっかに隠れるやら逃げるやらしといてくれ」
そう言って男は怪物の方へ向き直り
「こいつは俺が倒すから」
その機械的な剣を突きつけるのだった。
書き始めではありますが面白そう!と思ってくれたら良ければ感想のほどお聞かせください!