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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第八話 最強の戦鬼! 神喰らう牙持つ男
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8-終


「……なるほどな。それがお前が神魔と戦い、虹魔木を追う理由か」


 新の話を黙って聞き終えた士郎が、目を閉じ腕組みしながら、フウと重い息を吐く。


「そうだ。つまり、虹枝があんた達の家族を魔人や神魔へと変えたのも、元を正せば俺達のしでかした事が原因だ。それでも、俺達と共闘出来るのか?」


 新の問い掛けにも、士郎は考え込んだまま動かない。隣に座ったアルが、士郎の袖を引き呟いた。


「……兄様、私もサンちゃんも、兄様の決定に従います」


「そうだな……確かに、ブランクの言う通り、もしも虹魔木が解放されなければ、今の状況は違っていたかもしれない。だが、それはもしもの話だ」


 士郎が目を開ける。そこに宿る意志の光は、新の話を聞いた後も、何一つ陰ってはいない。


「起きた事は仕方ない。もちろん、ブランク達の過去を責めるつもりもない。大事なのは、これから何を為すか、だろ。今確実に言えるのは、虹枝はこれ以上存在しちゃいけない組織って事だ。ブランク、俺達の過去、そしてお前達の過去、全てを呑み込んだ上で、改めて俺達と手を組んでくれ」


 スッと士郎が右手を差し出す。新は頷きその手をしっかりと握り返した。


「わかった。俺は虚木新、こっちは八葉だ。俺達はあんた……士郎達を信じよう。こちらからも頼む……虹枝を潰す為、士郎の力を貸してくれ」


「ああ、感謝するぜ、新! それじゃあ、早速作戦会議といこうか。アル、頼む」


 ひとしきり握手を交わすと、士郎がソファに座り直す。指示されたアルが、何処から取り出したのか、大きな紙を机の上に広げた。


「これは……この街の地図か」


「そうだ。先ず、新の探し物である虹枝の会と、虹魔木の場所だが……」


 そう言って士郎が地図の一点を指し示す。街の中心市街に建てられた手名芽市発足のランドマークタワーだ。

 そこに書かれた文字を八葉が読み上げる。


「ふむ、手名芽レインボータワー……か」


「まさか街の中心部とはな……ここに、虹魔木があるんだな?」


 新の全身が一気に殺気立つ。今まで探し続けた虹枝の、虹魔木の所在をついに掴んだのだ。

 しかし、そんな新をやんわりと手で制し、士郎がニヤリと笑う。


「まあ、落ち着けよ、新。虹魔木は確かにここにある……あるにはあるが、間違っても単身で突っ込もうなんて思うなよ?」


「ああ、わかっているさ。すまなかった、続けてくれ」


「気にするな、新の気持ちは俺にもわかる。……で、だ。虹魔木はタワーの最上階、その更に上に作られた隠しフロアにあるんだが……その側には、虹枝の支配者である爺が常に居るはずだ」


「爺……?」


「神魔を支配する程の力がある、気に喰わない男って以外、名前も年齢もわからない謎の男だが、虹枝の支配者である事は確かだな。こいつの実際の強さは俺にも読みきれないが……少なくとも俺よりは強いだろう。それと、もう一つマズイ事に、爺の側には虹枝の幹部である春間という名の無表情な魔人が控えている。人間を神魔にする為、時折外出する事はあるが、すぐに戻れる以上、居るものと考えておいた方が良いだろう」


「なるほど。サンとアルを除けば、既に倒したブライと、春間、そして士郎の三人が幹部であり魔人という事で間違いないか?」


「ちょっ、ちょっと、あんた! 兄様じゃないくせに、気安く私の名前呼ばないでよねっ!」


「サ、サンちゃん、静かにしてないとダメだよ……」


 突然立ち上がり、新を指差しながらプリプリと怒りだすサン。それをアルがなだめる。二人の間に挟まれた士郎は、愉快そうに笑った。


「ハハハ、俺が許可するぞ、サン。新達はもう仲間だ。必要以上に気安くしろとは言わないが、仲良くはするんだ。いいな?」


「……はーい」


 士郎の言葉に不承不承サンが頷きポスンと座る。士郎はそんなサンに苦笑しながら、新へと向き直った。


「と言うわけで、俺同様に二人も呼び捨てにして構わない。で、幹部と魔人についてはその通りだ。つまり、俺達の障害らしい相手は、実質爺と春間だけだな」


「わかった。何とか春間ってのを引き剝がしたいところだけど……無理じゃあ仕方ない。日時を決めてブランクと士郎で一斉に攻めるしかないか」


「今の所、そうなるな。けれど先の戦いの様子なら、俺達とブランクで十分勝機はあるだろうさ」


「どうかな……確かに、士郎達の強さは規格外かもしれない。けれど、相手の強さがわからない以上、楽観は出来ないと思うぞ」


「まあ……確かにな。しかし、やらなきゃならない事は事実だ」


「それは同感だ。士郎……話は変わるんだが、虹枝側で俺達について、何か話を聞いたか?」


「話?」


「ああ、実はな……」


 ブライが言い残した、虹枝の狙いはブランクそのものであるという言葉を伝える新。

 しかし、士郎は残念そうに首を振った。


「悪い、新。俺達は普段、虹枝と距離を置いて生活していたから、よくわからないな。アルもサンもそうだろう?」


 士郎が尋ねると双子が頷き肯定する。


「と、いうわけだ。まあ、春間同様に爺と一緒だったブライが言ったんなら、あながち間違いでも無いんじゃないか? そうか……爺にとって、ブランクが強くなる事が目的……か」


 思いもしなかった虹枝の目的に、士郎が顎に手を添え考え込む。

 その時、二人のやり取りを黙って聞いていた八葉が口を開いた。


「ふむ……新。士郎の言うように、ブライの言う事が真実だったと仮定しよう。ここは士郎に協力してもらい、一つ確かめてみてはどうだ?」


「確かめる?」


「お? 何か考えがあるのか? 俺なら可能な範囲で協力するぞ。まあ、真っ正面から尋ねて、あの爺が正直に答えるとは思わないけどな」


「なに、そう複雑な事をするわけではない。こうするのだ」


 八葉がニヤリと笑うと、四人に向かって説明を始めた。



 士郎達と別れ、マリスチェイサーに乗った新と八葉が夜道を走る。しかし、廃工場から十分離れた道路脇で、新が突然チェイサーを停車させた。


「む? どうした、新?」


「ああ、ちょっとな……おい、聞いているんだろう、哲也」


 新がチェイサーへと話しかける。数瞬の間をおき、チェイサーのスピーカーから聞き慣れた声が聞こえてきた。


『やれやれ、気付いていたのかい? せっかく空気を読んで黙っていたのに』


「いや、単なるブラフだ。お前なら、その辺り抜け目無いだろうと思ってね。けど、盗み聞きとは感心しないな」


『ハハハ、チェイサーの戦闘モードが起動したので、モニターしていただけさ。なかなか壮絶な体験だったね、新』


「まっ、そういう事にしておくよ。で、哲也は士郎の話、どう思う?」


『タワーの件か。話を聞いて中原総合科学に残された、工事当時のデータをザッと調べてみたけど、隠しフロアの明確な証拠は見つからなかったよ。けれど、構造的に造る事は可能な設計になっているね……これはタワー制作に関わった企業に、虹枝の息がかかっていたんだろう』


「十分あり得る……って事か。わかった、ありがとう」


『……新。実際に拳を交えた君の判断が、正しいだろうとは僕も思う。けれど、相手は虹枝の魔人だ。十分注意をしてくれよ』


「ああ、そうだな……だけど、士郎達の事は信じてみようと思う。甘いか?」


『いや、わかった上で君がそう判断したならいいさ。さて、僕はそろそろ寝るとするよ……決行が決まったら教えてくれ』


「わかった」


 新が短く応えると、哲也が通信を切る。夜の手名芽に、相応しい静寂が訪れた。

 新はチェイサーの傍ら、ガードレールに腰掛け、夜空を見上げながらポツリと呟く。


「俺はやっぱり甘いのかな、八葉?」


 哲也に思わず出た言葉を、胸の中で反芻する。八葉は背後で、腕を組みチェイサーに寄りかかりながら、新と同じ様に空を眺めた。


「ふん、甘いと言って欲しいのなら、いくらでも言ってやるぞ? なんだ、士郎達との共闘、まだ悩んでいるのか?」


「いや、それはもう決めた事だ。けどな、あの日……八葉の魂を奪われ、母さんを化物に変えられて、俺は全ての神魔を倒すと誓ったはずなんだ……それなのに、士郎と、魔人と手を結んだ俺を、二人はどう思うんだろうか……」


 あの時の事を思えば、今でも新の胸は酷く痛む。だが、士郎に協力する事は虹枝を打倒する上で必要な事で、士郎側の事情にも納得出来た。だからこそ、新は差し出された士郎の手を取ったのだ。

 感情と理性、反発し合い混ざり合う事の無い想いに、答えの出ない新が再び夜空を見上げた時、トンと背中に軽い衝撃を感じた。


「や、八葉?」


「ウジウジと鬱陶しいぞ、新っ! うりゃっ!」


 驚く新。その背におぶさるように、八葉が後ろから抱きついていた。そのまま包帯に覆われた両腕で、新の首をチョークスリーパーの要領で締め上げる。


「ぐっ……お、おまっ……」


「二人がどう思うかだと? 私が知るか、そんなものっ! お前がするべき事は一体何だ? 過去に囚われ思い悩む事か? 違う、虹枝を倒し虹魔木を邪悪の手から奪還する事だ! 前を向けっ、脚を踏み出せっ、お前が悩み立ち止まった時間だけ、泣く者が増える事を頭に叩き込めっ!!」


 耳元で叫びながら、更に腕に力を込める。新は目を白黒させながら、八葉の腕を必死にタップする。


「わ……わかっ……ぐるじ…………」


 新に限界が近付いてきた時、不意に腕の力が緩む。新鮮な空気を求め、思わず咳き込む新の首に、今度は締め上げる事なく、そっと八葉の腕が回された。


「それでも……それでも、どうしても歩けない時には、お前の隣を見るがいい。私はいつでもそこに居て、お前の為す事を支えるぞ。新、お前は決して一人では無いのだ」


 一転優しく囁く様な八葉の言葉に、文句を言おうと開いた新の口が閉じる。その口元には笑みが浮かび、回された腕に手を重ねた。


「そうだな……ありがとう、八葉。俺はもう大丈夫だ」


「う、うむ、理解したのならば何よりだ」


 腕を解き離れようとする八葉。しかし、その腕を新の手が抑える。


「でも、もう少し……このままでいいか?」


「ぬぁっ…………ふ、ふふん、仕方ない奴だな。今回だけの特別だぞ?」


「ああ、もう少し、もう少しだけ背中のささやかな柔らかい感触を味わっていたくてね」


 新の言葉に、一瞬キョトンとする八葉。が、すぐにその意味に気付くと、月明かりでも分かる程に顔が真っ赤に染まる。


「なっ、ななな!? こっ、この阿呆がっ!!」


 バッと離れた八葉のゲンコツが新の頭に炸裂する。夜道に響く鈍い音と痛みの中で、新はただ満足そうに笑っていた。

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