表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第八話 最強の戦鬼! 神喰らう牙持つ男
95/130

8-9


「うぅっ……」


 新が意識を取り戻す。何かフワフワと柔らかな感触を感じ目を開くと、廃工場の高い天井が見えた。

 それを見た瞬間、急速に思考が覚醒する。士郎との激闘、朦朧とする頭のまま、チェイサーで最後の攻撃を仕掛けた事……全てを思い出した新は、ガバリと上体を勢いよく起こす。


「む、起きたか、新」


 士郎との戦いで吹き飛んだはずの応接セット、そのソファの端に座る八葉に気付き、そっと安堵する。どうやら新が寝ていた事で、八葉の座るスペースを奪っていたらしい。新はソファに座り直し、八葉に場所を譲る。

 と、同時に、新は自分の首に幾重にも巻かれている白くフワフワしている物に気付いた。それは八葉の右腕に繋がっていて……。


「ああ、それか? ただの枕替わり……いわゆる腕枕というやつだな」


「腕枕……ねぇ」


 長く伸びる狼の首となった腕から頭を抜き、八葉へと差し出す。八葉は腕を縮め、左腕同様に包帯に巻かれた人の腕へと形を変えた。

 二、三度その手を確かめるように握り、抑えた声で八葉が囁く。


「気を引き締めろ、新。事はまだ終わってはいない」


「え……」


 新はそこで違和感に気付く。目覚めてから今まで、八葉はこちらを一度も見てはいない……というより、一点を見つめたままだ。

 八葉の視線の先へと新も目を向ける。そこには、戦鬼体を解いた士郎達が居た。居たのだが……。


「なっ!? なんで土下座してるんだ!?」


 新が驚きの声をあげる。二人の少女は立ったままだが、その間でさっきまで戦っていた士郎が、握った両拳を地に着けて土下座していたのだ。


「ほらぁ……兄様、辞めましょうよー。向こうもドン引いてますってー」


「兄様……見てられません……」


 サンとアルが士郎の服を引き、何とか立たせようと声をかける。しかし、士郎は大きく頭を振ると、再び地に頭を着けた。


「ふむ、私が新をソファに寝かせてからずっと……この調子だ」


「そうなのか? お……おい」


「ブランクッ、俺はお前達に詫びなきゃならない事が二つあるっ!」


 見かねて新も声をかけるが、それを上回る声量で士郎が叫んだ。


「詫び?」


「そうだ。一つはお前との話、提案を急ぎ過ぎた事だ」


「提案……ああ、仲間になれってやつか……」


 全力を出した戦闘の後だからか、それとも異常な状態を目の当たりにしたせいなのか、新は妙に脱力し、あの時のような怒りは湧いてこない。


「そうだ。そしてもう一つは、お前の力を知る為に、あの時ブランクへ突っかかったアルとサンを止めなかった事だ。試すような真似をしてすまなかったが、俺の提案の為には必要な事だった。その二つの詫び、呑んだ上でもう一度俺の話を聞いてほしい」


「詫びとかはどうでもいい。その代わり一つだけ聞かせてくれ……どうして、そこまで俺を仲間にしたいんだ?」


「詳しくは後で話す……が、聞けばお前も納得する話だ」


「そうか……とりあえず、これ以上あんたを土下座させてちゃ、後ろの二人の視線が怖いから座ってくれ」


「お、おう、わかった」


 士郎が立ち上がると、双子が両脇から抱きついた。二人の頭を士郎が撫で、ソファに座るのを眺めながら、新が隣の八葉に尋ねる。


「なあ、八葉。結局、士郎との戦いはどうなったんだ?」


「ふん……私達の負けだ。奴にその気があるなら、新も私も既にあの世行きだったな」


「そうか……」


 ソファに深く座り、天井を見上げながら新が長く息を吐く。


「なら、仕方ない……か」



「さて……では改めて話をさせてもらおう。先に断っておくが、今から話す事は、お前達の同情を誘う為の御涙頂戴話じゃあない。俺達がどう生き、何故お前達を仲間にしたいか……それだけの話だ」


 アルが煎れなおしたお茶を飲み、士郎が話し始めた。


「俺とこの二人、アルとサンが、まだ真っ当な人間だった頃、俺達はある孤児院で生活していた」


 過去を想い出しているのか、士郎の口元には柔らかな笑みが浮かぶ。


「別に珍しくもない話だ。ただ家族の形が他とは違うだけで、俺達は俺達なりに幸せだった……が、善意で成り立つ孤児院の経営は難しかったんだろう。経営難に陥った俺達の家を、ある日とある金持ちが買い取ったのさ。それが…………虹枝の会だ」


「虹枝がか!?」


「ハハハ、今お前が驚いた通り、虹枝が善意で出資なんかするはず無いよな。けど、あの頃の俺達にはわからなかった。わかったのは、孤児院の家族が一人、また一人と居なくなり自分の番が回ってきた時だな。表向きは、虹枝のコネで引き取り先が見つかったって話だったが……実際はなんて事は無い。虹魔石の人体実験、そのモルモットにされたのさ」


 士郎の顔から笑みが消え、その眉根に深い皺が刻まれる。新はただ黙ったまま俯く。知らず知らず強く握っていた拳から一筋の血が流れていた。

 士郎の話が真実ならば……否、真実なのだろう。常日頃、非道な神魔ばかりを相手にし、薄れかけていた想いが新の心を重く潰す。

 神魔、その犠牲者達を産んだのは、虹魔木を解放した新達なのだ。

 そんな新の想いを知らず、士郎が続ける。


「虹枝の目的は強い神魔……魔人を産み出す事だった。その傾向を調査する実験だったようだな。運良く俺は魔人へと変化し自己を喪う事は無かったが、他の皆は残らず化け物に内側から喰われたらしい。ふん、もしかしたら、お前が今まで倒した中にも居たかもな」


「……待て、それじゃあ二人は?」


 新が士郎の両脇に座る少女を見る。二人は暗い顔で、ただ士郎の話に耳を傾けていた。


「……強力な魔人となった者には、虹枝の中でも特別な権力を与えられる。俺はその力で孤児院の生存者である二人を保護し、これ以上実験に使う事を辞めさせた……俺自らの力を分け与え、神魔ではなく魔人へと変える事を条件にね」


「ふむ……己自らの手で、か」


「許されるべき行為では無い……が、他に選択肢は無かった。そうして、魔人にする事は成功したが、幼い二人には耐えがたい経験だったんだろう……以前の記憶、その大部分を失い、無理に思い出そうとすれば、酷い苦痛を味わうようだ。二人には俺のように、以前の名前が勿論ある……それを呼ばず、アルやサンと呼ぶのもその為だ」


 士郎が二人の頭を再び撫でる。双子は目を細め、されるがまま撫でられた後、ポツリと独り言のように呟いた。


「私は……私達は兄様が居てくれたら、それだけでいいんです」


「に、兄様と居れば……辛くないです」


「ああ、ありがとうな。……以来、行くあてのない俺達は虹枝に身を寄せている。強力な魔人としての特権で、人を喰わず、虹枝の為に働かずにな。それが俺達の現状だ。ここまではいいか?」


「ああ、続けてくれ」


「……そうして、人外の化け物になり、虹枝の世話になっている俺達だが……お前の指摘通り、そうしている間も、虹枝は俺達みたいな存在を増やし続けている。これは何としても止めなきゃならない……が、俺達だけでは勝機は無い」


「っ!? おい、まさか!」


「そうだ、ブランク。もう一度提案するぞ。虹枝の悪行を止める為、奴らを完全に潰す為に、俺達の仲間になってほしい」


「……そういう事だったのか」


「ああ、これでこっちのカードは全部切った。どうだ、ブランク?」


 士郎が真っ直ぐに新を見る。新はチラリと八葉を見た後、士郎に力強く頷いた。


「わかった、あんたの提案に乗ろう。けど、その前に……俺も三人に謝らないとならない事がある。それを聞いた上で、どうするかはそっちが決めてくれ」


 そうして、新は話し出す。全ての元凶、幼い自分達が引き起こした災厄を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ