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『そうか……そういう事か』
八葉がブランクの中で頷く。士郎から目線を外さずにブランクが聞き返す。
「何がわかったんだ、八葉」
『うむ、何故奴等が憑依合身出来たのか、だ。通常、憑依合身は魂の繋がり、すなわち契約を交わした者同士を一体化させるもの……私と新のようにな。奴等はそれを、士郎という魔人の魂を双子に与える事で為したのだ。一つの魂を共有する繋がり……憑依合身出来たとしても、何もおかしな事はない』
「……そうか」
『しかし解せんな。本来、我々神の秘奥義であるはずの憑依合身……何故奴が知っている?』
「さてな……けど、現実に奴はそれを出来ているし、あそこに居るのは、既に魔人三人分以上の力を持つ化け物だ…………っ!」
黒い光の残像を残し、士郎が駆ける。一瞬、反応の遅れたブランクへ、下から突き上げるように拳を放った。
対するブランクも、膝を上げ防御する。と、その時、脚に触れた拳と共に士郎の姿が視界から消える。同時に片脚立ちのふくらはぎを薙ぐ様な衝撃に、ブランクがバタリと横倒しに倒れた。
ブランクに防御されるとわかった瞬間、姿勢を最低の位置まで下げた士郎が、高速でブランクの背後に回りこみ、足払いをしたのだ。
「くっ!?」
『新っ、次が来るぞ!』
八葉の言葉と同時に、倒れたブランクの腹へと、両手で身体を支えた士郎が低い姿勢のまま、振り上げた右脚をかかと落としのように振り下ろした。
その攻撃を間一髪、ゴロゴロと横に転がり回避したブランクが、両手で地面を叩き、反動で瞬時に起き上がると、そのまま士郎の頭目掛け中段蹴りを打ち込む。
「はっ、遅いぞっ、ブランクッ!」
士郎がブランクの蹴り足に肘を打ち弾く。そのままブランクの懐まで飛び込むと、焔の様な赤黒い光を纏った拳で、ブランクの顎を下から的確に打ち抜く。
「グッ! ……ハイチャージッ!!」
フラつく脚を踏みしめ、頭を振りながらブランクが叫ぶ。そのまま、追撃しようとする士郎の右拳に、自身の光る拳をぶつけ相殺した。
弾かれる両者の腕。しかし、すぐさま士郎が、今度は左から手刀を放つ。
おそらく下手な刃物より鋭いであろうそれを、バックステップで躱すブランク。拳の届かない距離に離れた瞬間、士郎の胴にある狼の口がボウと明るく光った。
「っ! サラマンダー・ソウルコネクトッ!!」
ブランクの全身が赤く光るのと同時に、士郎の胸から黒く燃え盛る焔が吐き出される。
この世のものとは思えない、地獄の底から生まれたような色の焔は、サラマンダーの力を宿したブランクの装甲すらもドロリと溶かしだした。
「ハイチャージッ!」
ブランクがサラマンダーの力を引き上げる。全身は白く発光し、その身から発する熱が士郎の焔を抑え込む。
「ありゃりゃ!? 私達の焔に耐えちゃった!」
「ふふんっ、だからこそ面白いっ!」
胸の狼から発せられたサンの声に、士郎が笑って応える。両腕を胸の前で重ねると、鎧と腕にある五つの狼頭が口を開く。
「アレをやるぞっ、アルッ! サンッ!」
「オッケーです、兄様っ!」
「はい、兄様」
双子の返事と共に、狼達が焔を吐き出す。だが、焔はブランクへと向かわず、全て士郎の身体を包み込んだ。
「うぉぉぉぉぉっっ!!」
虚空に向かって士郎が吼える。全身を燃やす焔は、まるで意思があるように動き出し、士郎の身体を伝うと右脚へと集まっていく。
その意図を察した八葉が鋭く叫んだ。
『新っ、こちらもだっ!』
「応っ! エクセス・チャージッ!!」
ブランクが跳び上がり、全身を覆う光を足先に集め、光の牙を作り上げる。
対する士郎もまた、脚先に集中し黒い光へと変わった焔を燃やしたまま、ブランク同様に跳び上がった。
「バイツ・フィニッシャーッ!!」
「燃えて焦げなっ、ブランクッ! グレイプニル・ブレイクッ!」
ブランクと士郎、二人の蹴りが、宿した光が空中でぶつかり合う。
二つの高エネルギーの衝突に、発生した衝撃波が周囲の金属柱を捻じ曲げ、応接セットを紙切れの様に吹き飛ばし、窓という窓を砕いた。
「オォォォォォッ!!」
士郎が獣の雄叫びをあげる。
拮抗していたかに見えた力が、その瞬間大きく崩れた。一気に強さを増した士郎の光に、ブランクの光が搔き消え、そのまま全身が焔に呑み込まれる。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
高エネルギーの嵐の中、ブランクが叫ぶ。
着地した士郎に続いて、全身の装甲をグニャグニャに溶かしたブランクがドサリと重い音を立てて落下した。
「一応、形は残ったか……が、もう終わりだな」
「人間にしては頑張った方じゃないですか?」
「でも、兄様と私達には勝てないです……絶対」
「それで、アレどうします? もういらないですか?」
「そうだな。この程度じゃあ仕方ない……けど、もう少しやれる奴だと思……グッ!?」
士郎が突然ガクリと膝をつき倒れた。黒い光が士郎を覆い、合身を解いた双子が慌てて士郎を抱き起こす。
「に、兄様!?」
「だ、大丈夫ですか?」
抱えられ力無く上体を起こす士郎。しかしその肩は小刻みに震え、遂には大声で笑い出した。
「ハハハハハッ、これを見ろっ、アルッ、サンッ!」
ひとしきり笑い、戦鬼体から人の姿へと戻ると士郎は自身の下半身を指差す。
そこにはあるべきはずの両脚が無く、ただ灰の山が出来ていた。
「あの瞬間、奴の攻撃も俺に届いていたんだっ! 俺の力でもまだ再生すら出来ないぞ! これなら……」
━━カチャリ━━
不意に聞こえた金属音に、士郎が顔を上げる。そこには、さっきまで倒れピクリとも動いていなかったブランクが、ボロボロの状態で立ち上がっていた。
「……っ、に、兄様! ここは私達が!」
アルの言葉にサンも頷き、ブランクの前に立ち塞がる。その時、廃工場の壁を砕き、一つの大きな影が飛び込んで来た。
「なっ、何っ!?」
四人の元へ突き進んでくる巨大な影。咄嗟に士郎を抱き、飛び退る双子を無視して、影はブランクへと体当たりした。
━━ブォンッ━━
巨大な影……ブランクに体当たりするようにぶつかり、その勢いで主人を背に乗せた大型装甲バイク、マリスチェイサーがエンジン音を響かせ吼える。
そのハンドルを今、ブランクがしっかりと握った。
「……エクセス・チャージ」
ブランクの身体を光が覆う。その光がチェイサーへと流れ込み、チェイサーの装甲に変化が現れる。
ガチャガチャと装甲が可動し、チェイサーの前面に装甲板が並んだ。それは、見ようによっては、鋭い牙を生え揃えた巨大な顎に見える。
「……マリス・ストライク……」
呟くように発せられた声によって、チェイサーが半ば自動的に発進する。ブランクの両目は、溶けたバイザーの奥から、しっかりと士郎達を見据えていた。
「あ、あぅ……」
士郎を抱え逃げるべき双子は、ブランクの鬼気迫る視線とそこに宿る執念に、その身を鷲掴みにされたかのように硬直し動けない。
「ちっ!」
両脚が再生しきれていない士郎は短く舌打ちし、双子の襟首を掴むと後方へ思い切り投げ飛ばした。
突き進むチェイサーの纏う光が強くなり、ブランクごと全体を覆う。巨大な狼の頭へと変わったチェイサーは、そのまま士郎へと突撃し……光を失い直前で滑るように転倒した。
最後の最後、遂に力尽きたブランクは、士郎の目の前でチェイサーから投げ出され、その変身を解除した。




