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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第八話 最強の戦鬼! 神喰らう牙持つ男
87/130

8-1


 戦鬼ブライとの激闘から数日が過ぎた。

 智秋の怪我は軽く、翌朝には退院でき、今頃は学校に居るだろう。

 新は自宅である虚木超常現象研究所の縁側で、一人静かに瞑想をしていた。

 月が変わり、夏が過ぎ、日々少しづつ涼やかになってきた風が新の頬をサワリと撫でる。目を閉じ微動だにしない新は、一見深く集中しているようだったが、心の中ではドロドロとした悩みに囚われていた。


「気が入っていないようだな。そんな状態で何をどれだけ繰り返そうと、何の足しにもならんぞ?」


 背後から聞こえた声。新の心の中を見透かしたように笑いながら、菓子盆を持った八葉が新の隣にドカリと座る。


「八葉か……」


「ふふん、おおかた先の戦いで、奴が最後に言った事でも気になっているのだろう?」


 手に取った煎餅をバリバリ噛み砕きながら、八葉が笑う。長年共に戦い、魂で触れ合っている、この小さな戦友に隠し事は出来ないな……と新は頭を掻いた。


「なぁ、八葉。ブライが言った事……俺達が強くなる事自体が、虹枝の目的ってどういう事だろうな?」


「知らんな」


 新の問いかけを、八葉はバッサリと斬り捨てる。


「そうだよなぁ……」


 ゴロリと新は縁側に寝転がる。屋根のひさし越しに見る空は、悩む新とは対照的に青く澄んでいる。

 八葉は次に食べる菓子を選びながら、話を続けた。


「あのブライについて私達はごく短い時間、それも戦いの中でしか知らない。だがそれでも、だ。およそあの場で嘘や謀略を巡らす奴ではないだろうという事はわかる。そうだろう、新?」


「ああ、そういう奴なら、俺達を倒す方法なんて、もっと色々あったはずだ。ありゃ根っからの戦闘タイプって感じだったな」


「うむ。だから、ブライの言う内容が真実だと仮定して、それでも、何故虹枝は私達が強くなる事を望むのか、それが果たして奴等にとって何の利になるのか、それがわからん以上、今ああだこうだと言って悩んでも何も始まるまい。私達に現状出来るのは、ただただ強くなる事だけだ」


「それが相手の思う壺でもか?」


 新が空から八葉へと視線を移す。少女は一切の迷いなく頷き肯定する。


「無論だ。相手の目的が不明ならばこそ、いざ事が起きた時、柔軟に対応出来るよう訓練を積む必要がある。赤子と戦士では、有事に取れる手段の選択肢、そのものの数が圧倒的に違うからな」


「はぁ……やっぱ、それしかないか」


「新が、今出来る事をせずに、いつか後悔したくなければな。後は……まあ、少しでも虹枝の真意について情報を集める事くらいか」


「情報ねぇ。虹枝に関しては、あの多聞でもだいぶ手こずっているみたいだし、俺もあまり深入りさせたくはないけれど……一応、頼んでおくか」


 新が起き上がり、多聞に連絡しようと携帯端末を取り出す。その瞬間、手にした端末が着信を告げる振動を始めた。


「ん、電話か?」


「……ああ、タイミング良すぎて怖いが、多聞からだ」


 苦笑し応答ボタンを押す新。端末越しに聞き慣れた多聞の声が聞こえた。


「突然ごめんなさいね。今、いいかしら?」


「ああ、構わないよ。どうかしたのか?」


「実はね、今日は貴方にお願いがあって連絡したの」


 フゥと物憂げな溜息が漏れ聞こえる。多聞の正体を知らない男なら、それだけで背骨が溶かされるような色香があったが、幸いにも新には通用しない。


「頼み? 多聞からってのは珍しいな」


「ええ、ブランクを扱った例のネット記事、その続報が出たのは知っていて?」


「ああ、あの記者さんの記事か……あの時はゴタゴタしてたけど、それが片付いてから見たよ」


 新が空を見上げながら思い出す。あの夜、デュラハンから救った記者が、その時の事をやや感傷的に記事にしたのだ。夜の高速、人知れず怪物を倒す正義のヒーローを記者は見た! ……確かそんな感じの見出しだった。

 再び多聞の溜息が聞こえる。


「その記者さん。梅咲正太だったかしら? どうやら、その一件で随分と貴方……というかブランクに御執心となったようね。色々なコネや地道な調査を重ねたんでしょうけど、先日ついに私の所まで来たわ」


「多聞の居場所へ? そりゃ凄いな」


 新が感心したように呟く。新が多聞と出逢ったのは、過去に神魔絡みの事件で律と出逢ったからで、ほとんど偶然と言ってもいい。それくらい、極楽町のフィクサーである多聞を知り、更に面会するというのは容易な事では無いのだ。


「感心するのはわかるけれど、ここからが問題なのよ。紹介してきた相手の顔も立てて、とりあえず会うだけ会ってみたのだけれど、ひたすらブランクの情報が欲しい、ブランクに会わせてくれと言われてもね……一応消す事も可能だけれど、後々を考えると、それはちょっと面倒なのよね」


「おいおい、物騒だな」


 茶化すように新が返す。だが、おそらくやろうと思えば、木っ端記者一人なんて、いつでも存在しなかった事に出来る力が多聞にはあるだろうことは間違いない。


「ええ、それは貴方も良い顔しないだろうし、消すのは辞めておくわ。でも、法外な価格を提示しても、借金してでも用意しそうなのよ。う〜ん、やっぱり消すしかないかしら……困ったわぁ」


「はぁ……わかったよ、多聞。俺がそいつに会って上手い事丸め込めばいいんだろう? ブランク本人としてではなく、さ」


「あら、そう!? ふふふ、助かるわぁ! それじゃあ、都合のいい日時と場所を決めて。私から彼に伝えておくわ」


 さっきまでとは一転、上機嫌になった多聞が笑う。新はチラリと八葉を見たが、会話を聞いていたはずの少女は興味無いとばかりに菓子を頬張っていた。

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