7-終
「グォッ! テメェッ、また俺の腕を!」
唸るブライ。ブランクの中で八葉もまた叫んだ。
『今だ! 決めるぞ、新!!』
「応っ、エクセス・チャージッッ!!」
高く跳び上がったブランク。その全身で装甲がガチャリと開くと、抑えられていた光が溢れ出し狼の頭を模した形へと変わる。
更に右脚の装甲が、脚を囲むリング状に変化すると、全身を覆っていた光が崩れながら足先に集中。ブランクの右脚は尽く総てを貫き穿つ光の牙となった。
「ブランクゥッ!!」
ブライが胸を反らす。胸部装甲から、巨大な牙が空中のブランクに向けて、高速で打ち出すように伸びる。
「お前に苦しめられた皆の魂、お前ごと楽にしてやるっ! バイツ・フィニッシャーッ!!」
ブランクの背面から光が放出され、ブライへと超加速する。ブライが放つ乳白色の牙とブランクの光を放つ牙が、真っ正面からぶつかり合った。
「ウォォォッ!!」
巨大な牙とぶつかり止まるブランク。しかし、それも一瞬。触れ合った場所から、瞬時に灰へと変えながら突き進み、遂にはブライの巨体を貫いた。
ブライの腹部に大穴を開け、その背後に降り立つブランク。必要が無くなった事を物語るように、ブランクのアンリミテッドが解除され、通常のブーストフォームへと姿を変える。
「グ……グッ……まさか、俺をヤルとはな……」
傷口を抑えブランクへと向き直るブライ。戦鬼体から素のブライへと戻ったが、腹部の傷口は徐々に灰へと変わり始め、既に助からない事を如実に示していた。
「ブライ……消える前に教えろ。今、虹魔木は何処にある? 虹枝の、お前の主人は誰だ……それは間口耕三という名じゃないのか?」
語気を強め詰め寄るブランク。しかし、ブライはその口元をキュッと結んだまま、ブランクを見下ろす。
「どうなんだ? 答えろ、ブライッ!」
「……よお、ブランク。お前、確か俺を別の名前で呼んでいたな。生憎俺には、魔人となる前の記憶が無ぇ。それは……俺の昔の名前か?」
「……ああ、そうだ。大橋剛太、それがお前がまだ真っ当な人間だった時の名前だ」
その言葉を聞いた瞬間、ブライが破顔する。
「ククク……はっはっはっ! そうか、一ミリも覚えの無ぇ名前だ。俺はやはり、根っこから虹枝のブライらしいぞ」
愉快そうに笑うブライ。その間にも体の灰化が進み、遂には上下に体を分断した。
ドサリと落下するブライの上半身。夜空を見上げながら、ブライは笑うのを止めない。
「一個だけだ。下らねえ事を聞いた代わりに、一個だけ教えてやるよ。テメエは神魔を次々と倒し、力を増しているようだが……それも全て、ウチの大将の思惑通りだぜ」
「っ!? おい、それはどういう意味だ!」
「さてね……大将の行動を見ると、そうじゃねえかと思っただけさ。だが、幹部の俺が言うんだ、そう間違いでもないだろうさ。虹枝の、本当の狙いはテメエだぜ、ブランク」
「……」
「それだけ教えてやる……それだけだ……テメェとの闘い、まあまあ愉しかったぜ……」
「お、おい、ブライッ!」
ブライが満足気に笑い目を閉じる。首元まで迫っていた灰化が一気に進み、ブライの輪郭は崩れ去った。
「……ディスコネクト」
灰となったブライを見下ろし、ブランクが光に包まれる。その中から進み出た八葉が、灰の中から巨大な黒い結晶を拾い上げた。
「気分はどうだ、新?」
「なんだ、八葉。何が言いたい」
「今後の為に、改めて問おうと思ってな。初めて人間を手にかけた気分はどうだ、と聞いたのだ」
「人間……」
掌の結晶を覗き込みながら八葉が続ける。
「そうだ、人間だ。例え神魔を喰らい人外の力を得たとは言え、奴もまた人間である事に間違いあるまい? 新は今、自身の意思でその命を摘み取ったのだ」
「それは……そうだな。もし魔人となった人間を倒す事が罪だとしても……俺は躊躇ったりはしない。奴らを野放しにするくらいなら、その罪も背負って戦い続けていくだけだ」
「ふむ……それがお前の答えなら、私はそれで良いさ。だが、罪の半分は私が背負おう。私と新、二人でブランクだからな」
八葉が頷き、手にした結晶を頬張る。その光景を眺めながら、新は哲也へ連絡する為に端末を取り出した。
◆
「そうかそうか、ブライが敗れたか」
跪く春間を前に、アンティークチェアに座った男は、笑みを抑え隠すように口元を手で覆った。
しかし、隠しきれない声色の変化に、春間が顔を上げる。
「失礼ながら、お尋ねします。まさか、ブライの敗北をわかって戦わせたのですか?」
「ふふん、そう思うか、春間よ。私はブライの力を信じ送り出したが、その期待は見事に打ち砕かれた。己の愚かさからくる見込みの甘さに、思わず笑ってしまった。それだけの事よ」
「……失礼しました。虹枝の幹部という身でありながら、主様の希望を叶えられなかった事、ブライに代わり私がブランクを討つ事で謝罪といたします」
頭を下げる春間。しかし、男は手をヒラヒラと振り、頭を上げさせた。
「構わん。春間には引き続き新たな神魔誕生の任を
行なうといい」
「承知しました……ですが、ブランクはどういたしますか?」
「ふん、それは奴に任せよう。元よりそういった事でしか使えない奴だ。後で使いを出しておけ」
「……はっ、すぐに向かわせます」
再び頭を下げた春間。彼にしては珍しく、その表情には不機嫌そうな色が滲んでいた。
◆
とある山奥。既に人が離れて久しい荒れ寺の中、本尊である朽ちかけた不動明王像の前で、向きあうように若い男が一人、静かに座禅を組み瞑想していた。
男は背まで伸びた白髪を後頭部で結び垂らし、アクション映画に出てくるような、黒いカンフー服を着ている。
それは、およそ寺には似合わない姿だったが、不思議と寂れたこの場所や、そこを漂う空気にピタリとハマっていた。
「兄様〜、いらっしゃいますか〜?」
永遠に続くかと思われた静寂を破り大きな声が響く。続けて可愛らしい少女が二人、本堂へと入ってくる。
少女達は双子なのだろう、二人とも同じ顔だ。それぞれ赤と青の、男と同じカンフー服を纏い、黒髪をこちらも男と同じ様に結っている。
「あちゃ、お邪魔しちゃいましたか?」
赤い服の少女が口に手を当てる。先の声もこの娘からだったのだろう。男は目を閉じたまま、ゆっくりと首を振る。
「いや、大丈夫だ。どうしたんだ、サン」
「さっき、虹枝の使いが来ましたよ。相変わらず勝手に来て勝手に帰るんですよね、あいつら!」
サンと呼ばれた赤い服の少女が、腰に手を当て不満そうに頬を膨らませた。男は口元に笑みを浮かべ、二人に向き直る。
「それで? どういった要件だった?」
男の問い掛けに、青い服の少女が口を開く。傍らの快活そうなサンと比べ、モジモジとした姿は大人しそうな印象を受けた。
「あ、あの、兄様に神魔狩りを倒せという依頼でした。詳細はこちらの資料にあるそうです」
「アル、神魔狩りって何だっけ?」
男がアルと呼んだ少女から、差し出された資料を受け取りながら、不思議そうに首を傾げる。
「最近、手名芽市で神魔を倒して回ってる奴ですよ。ほら、この前ブギーマンもやられたとかで、兄様にも連絡来たじゃないですか!」
「……ああ、そういえばそんな話だったな」
「本当に思い出しました? 兄様、そういう所いい加減だからなぁ」
「う……サンちゃん、兄様が興味無いなら一々覚える必要無いんだよ、きっと」
腕を組み疑いの眼差しで男を見るサンの背中を、アルがポンポンと叩いた。
「アルは甘いなぁ……ま、いっか。で、どうします、それ」
「ん〜、いや、興味無いな。無視だ無視」
欠伸しながら、ポンと資料を部屋の隅に放る男。見た目の荒れ具合とは逆に、掃除だけは行き届いているのか、資料は埃一つ巻き上げず、パサリと床に落ちた。
「あ……あの、でも……」
「兄様、その神魔狩り。昨日あのブライを倒したらしいですよ?」
「しかも、一人で……らしいです」
「っ!? ブライ? あのブライをか?」
サンとアルの言葉に、男が立ち上がる。その勢いに双子も思わず後退る。
「そうか……ハハハハ、アル、サン。これはもしかしたら……楽しい事になりそうだなっ!!」
笑いながら、ブンと背後に向かって男が腕を振る。次の瞬間、数歩分離れた不動明王像が、粉々に砕け散った。




