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月明かりに照らされた小岩……掘り返されたコンクリートに腰掛け、ブライが大欠伸をした。
「ちっ、遅えな。まさか、あのメッセージが伝わって無いって事はねえよな……」
あの日、謎の交通規制がこの高速道路にかかっていた事から、神魔狩りに通じるだろうと踏んで管理会社へメッセージを送ったブライだったが、時刻はそろそろ指定した真夜中になろうとしていた。
「あ〜あ〜、つまんねえなぁ……ちょいとフライングだが、もう何人かやっちまうか?」
ブライがそう言いコンクリートから立ち上がる。その時、高速道路の向こうから走り寄ってくる影が叫んだ。
「待てっ! その必要は無いぞ、ブライ!」
「来たか……ん? なんだ、このガキ?」
「ガキで悪かったね! 変身っ!」
智秋の左腕に巻かれたグレイブ・ギアが輝きを放ち、少年の姿を白き装甲を纏う戦士グレイバーへと変えた。
その姿を見て、納得したブライが頷く。
「なるほど、テメェ、あの馬野郎……確かグレイバーだったか。おい、ブランクはどうした?」
「お生憎様。ブランクはお前の相手をしている程暇じゃないのさっ!」
「はんっ、そうかい。いや、俺は別に構わねぇぜ? お前の体をプチっと潰した後で、ゆっくりブランクの野郎を探してやるからよ。業魔転変っ!」
黒い光がブライを包み込む。その中で瞬く間に戦鬼体となったブライが、猛スピードで飛び出した。
「っ、第一封印解放っ!」
巨体のタックルを紙一重で躱し、グレイバーもまた光に包まれる。変化し騎士鎧を思わせる姿になったグレイバーは、背部装甲から金属筒を取り出し伸ばす。
「チャージッ!」
先端に光の刃を生み出し、薙刀状になった金属筒をグルリと振り回し構えるグレイバー。それを見て、ブライが両拳をガキンと打ち合わせた。
「へぇ、テメェだけでもなかなか楽しめそうじゃねえか、グレイバーッ!」
飛び込むように一気に距離を詰めるブライ。そこから打ち下ろすように放たれた拳を、グレイバーはヒラリと跳び上がり避ける。そのまま空中で、手にした薙刀を伸びきったブライの腕に叩きつける。
しかし、神魔を容易に斬り裂く刃も、戦鬼ブライの装甲には刃が立たない。
「くっ!」
「はは、くすぐってぇな!」
ブライは腕に当たった薙刀ごとグレイバーを吹き飛ばすように巨腕を振る。枯葉のように飛ばされたグレイバーだが、体を捻り何とか着地した。
「それがテメェの全力か、グレイバー。正直、その程度じゃあ俺の命は取れねえぜ」
「まだまだっ! はぁっ!」
グレイバーが動く。
薙刀を下段に構えたまま、ブライへと突撃すると、それを悠然と構え眺めていたブライの足元に、腰から引き抜いた苦無を投げつけた。
「爆っ!」
連鎖的に爆発する苦無だが、やはりブライは動じない。既に一度受けている攻撃に、自身を傷つける威力は無いと知っているのだ。巻き起こる爆煙の中、ブライはグレイバーの攻撃に神経を集中させる。
「……む?」
しかし、苦無の煙を隠れ蓑に、ブライが来ると予想した攻撃がなかなか来ない。訝しんだブライが拳を振り、拳圧で煙を散らすが、周囲にグレイバーの姿は無い。
「野郎……逃げやがったか?」
辺りを見回すブライ。そのブライに向かってグレイバーが叫ぶ。
「誰が逃げるかっ!」
「上かっ!」
上空からの声に、ブライが振り仰いだ。その視界一杯に、薙刀をランスに変え、落下によって勢いを増したグレイバーが映る。
「もらったぁぁっ!!」
ブライに生じた一瞬の隙。そこにグレイバーが必殺の一撃を放った。
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「何でお前が虹魔木を持ってるんだ!」
新の声に、アガルテが首を傾げ自身の鬼面を空いている左手でなぞる。
「ほぉ、逆に聞こう。貴様は何故、この祭具の事を知っている?」
「祭具……だと?」
「そう、これこそは私を神の座へと押し上げる、真にして唯一の祭具よ」
「神だって……ふざけるなっ! それで一体どれだけの人間が泣いたと思う」
「知らんな、そんな瑣末な事は。私にとって重要なのは、もう少しで私の望みが叶う……ただそれだけよ!」
アガルテが左腕を大きく振るう。それが合図であったかのように、上空から巨大な何かが落下し、地響きを立てた。
「ふん、ようやく来たか。この愚図め」
「すみません、ご主人様。でも、お言付け通り全員ちゃんと眠らせました」
巨大な何かが動き喋る。新の背後で、再び村人達が悲鳴をあげる。それは人の三倍はあろうかという、巨大な鬼だった。
「神魔かっ!」
新が自身の左腕にチラリと目を向けギリと歯噛みする。アガルテはそんな新を気にも止めず、自身の配下である鬼を一瞥した。
「それを行うのが遅いから愚図だと言っている。……まあ良い。今から私は儀式を行う。お前は邪魔が入らぬよう、よく見張っていろ」
「あい」
鬼が頷き、アガルテと新達の間に立つ様に、ズイと前に立つ。その後ろを祠に向かってアガルテが歩き出した。
「くっ、お前達の好きにさせるかっ!」
新が足元の石を拾い上げ、アガルテに向かって走り出す。しかし、すぐにヌッと鬼の巨大な掌が行く手を塞いだ。
「もう、殺さず眠らせるの面倒くさいから、お前もジッとしていろ」
「ちっ!」
新が舌打ちし、前方の手に向かって跳ぶ。壁のような掌に蹴りを放ち、蹴った勢いで再度跳んで鬼の手を飛び越える。そのままアガルテに、手にした石で殴りつけた。
「アガルテェッ!」
「ふん! 馬鹿がっ!」
新に向かってアガルテが左手を向ける。ただそれだけの動作で、巨大な力が新を吹き飛ばした。
「うぐっ……」
「その馬鹿をしっかりと捕まえておけ。私の邪魔をさせるなっ!!」
アガルテの指示に、恐縮しながら返事をし、鬼が倒れた新を握り拘束する。
「く、離せっ!」
「お前、いい加減にしろ。ご主人様の邪魔するな」
新は必死に脱出しようとするが、鬼の力で締め上げられ、腕一本動けない。その様子を鼻で笑い、アガルテがマカミの祠に左手を触れた。
「……むんっ!」
新を弾いた力が再び放たれる。祠を構成する相当な重量の石板がフワリと宙を舞い、次の瞬間には四方八方へと飛び散った。
「そうだ。やはりここだ。ここが一番歪みが強い」
「っ……歪み?」
新の呟きにアガルテが振り返る。その顔には上機嫌な笑みが浮かんでいた。
「ふん、貴様ごときに言っても理解出来んだろうが、強い力は世界を歪ませる……その力の強さに相応してな。そして歪みを生む程の力を私の物に出来るのが、この祭具なのだよ」
「な、そんな事っ!」
「させんと言うのか? ハハハ、今の貴様に何が出来る。そこでゆっくり見物しているといい……む、なんだこれは?」
アガルテの視線の先、さっきまで祠があった場所に、ちょこんと置かれているのは古ぼけた木彫りの狼像だ。あれこそがオオグチマカミ信仰の御神体なのだ、そう新が理解するより早く、アガルテがマカミ像に左手をかざす。
「ふん、不快だな。そこは新しき神となる私の場所。古き神は邪魔だ」
「ダメッ!」
その時、岩陰から小さな影が飛び出し、マカミ像を庇うように両腕を広げた。
「マカミ様に酷いことしないでっ!」
「っ! ダメだ、アサ! 止めろ、逃げるんだっ!!」
飛び出したアサに、新が声の限り叫ぶ。しかし少女は両腕を広げたまま、一歩も動こうとしない。
「ふんっ、そうか。そんなにこの像が大事か、娘よ」
左手を下ろしアガルテが呟く。仮面の奥、邪悪な色に光る瞳に、新の脳が激しく警鐘を鳴らす。
「良いだろう。私はこれに手を出さない。代わりにお前自身が、その手で像を破壊するのだっ!」
そう叫ぶと、アガルテが虹魔木の枝から、虹魔石を一つちぎり取り、素早くアサの頭にそれを突き入れた。




