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「ヤッ!」
デュラハンの巨大な刃、その質量をグレイバーが両手で掴むように受け止める。その重量が加わった斬撃の勢いで、コンクリートがヒビ割れる。
「小癪なっ! ならばこのまま押し潰してくれるっ!」
デュラハンが剣を両手に持ち替え、ギリギリと更に力を込めた。
それにつれてコンクリートの亀裂は大きくなるが、グレイバーの姿勢は変わらない。むしろ、少しずつだが、上へ上へと押し上げている。
「ハッ!」
「むぐっ!?」
遂には完全に押し勝ち、大剣が跳ね上がった。グレイバーは自身の両掌を見つめ、それをグイと握りしめる。
「今わかった。僕はやっぱり強くなった。強くなれたんだ……チャージッ!」
握った両手が白く輝く。そのグレイバー目掛け、デュラハンがまたも剣を振り下ろす。
「吾輩の剣、一度受けたくらいいい気になるな!」
「ハッ!」
グレイバーは、受け止めようとせず、真っ正面から大剣の刃に右拳を打ち付ける。
━━ガギィンッ!━━
凄まじい衝撃で跳ねる大剣と、右後方へ振れるグレイバーの拳。両者そのまま、再度振り下ろし打ち付ける。
━━ギンッ!━━
角度を変え、速度を変え、幾度も幾度も衝突し合う拳と剣。しかし、繰り返し続けると思われたそれも、終わりは呆気なく訪れた。
「なっ、馬鹿な!?」
一際大きな金属音と共に、中程からポキリと折れるデュラハンの剣。思わずたじろぐデュラハンの隙を突き、グレイバーが距離を一気に詰める。
「喰らえ、デュラハンッ!」
「うぶっ……」
先の戦いでブランクに鎧を砕かれ、剥き出しとなった胴へ鋭い突きを放つグレイバー。生身に直接攻撃を受け、よろつくデュラハンが折れた剣を杖がわりに、何とか巨体を支える。
「ブランクに続き、こんな小僧にまで……ぐぅ、せめて魂を確保出来ていれば……」
「そんな事、僕とブランクがさせるものか! さあ、覚悟はいいか!」
「く……こうなっては……叱責覚悟でブライ様の元へ戻らねば……ハァッ!」
呟きデュラハンが跳躍する。グレイバーが跳び上がるデュラハンを目で追った一瞬、何処からともなく巨大な黒毛の馬が現れ落下したデュラハンをその背に乗せた。
「すまんな、グレイバーとやら。吾輩、ちと急用を思い出したので、これにて失礼!」
「あっ、待てっ! デュラハン!!」
「待てと言われて素直に待つわけなかろう。いずれ……そう、これを新鮮な魂で一杯にしてから、再戦といこうか、グレイバー!」
デュラハンが手に握ったブラックギアを、誇らし気に掲げながら走り出す。グレイバーもすぐに後を追いながら叫んだ。
「そんな事させないって言ったろ! よし……やるぞ……第一封印解放っ!」
走りながらグレイバーの体が光を放つ。その光の中で、グレイバーの装甲が形を変えていった。
◆
「……段階的な封印解放、ですか?」
遡る事数日前、椿の屋敷、夢幻門での特訓を終えた智秋が首を傾げた。
今日だけで既に数度、椿と夢幻門内での特訓を行なっている。夢幻門の中なので身体に怪我一つ無いが、少年の精神は既に相当疲弊していた。
そんな智秋の左腕に装着されたグレイブギアを、キズミルーペに似た単眼拡大鏡を使い眺めていた三郎太が頷く。
「はい、こちらに封印された神魔、ユニコーン でしたか。智秋様は、御自身の魂を分け与える代わりに、そこから力を汲み出していますが、ユニコーン を囲う幾重もの封印を解放していけば、与える魂と使用出来る力の量を増やす事が出来ます。実際、こちらの道具には、それが可能な様に設計された仕掛けがあるようです」
「へ〜、その玩具にも面白い機能が付いてるっすね。というか、三郎太は相変わらずそういう細かいの好きっすね」
茶化すような主人の言葉にも、三郎太は柔和な表情を崩さない。
「はい、人の技術という物は、日進月歩……次々と新しき物が出ますので、興味は尽きません」
「グレイブギアにそんな機能が……後で哲也さんに詳しく確認しないと……つまり、封印を解放していけば、僕はもっともっと強くなれるって事ですよね?」
「なれるっすよ」
興味なさ気にアッサリと椿が答える。力ある鬼神の椿にとって、神魔の力を扱うギアは所詮玩具でしかないのだ。
しかし、すぐに智秋が自身の教え子だと思い直し、人差し指をピンと立てる。
「けど、封印を解くという事は、そん中の神魔にその分、自由を与えるって事と同じっす。解放するなら、そこん所をよーく考えてする事っすね」
智秋の脳裏に、アキトの……ユニコーン の声が蘇る。しかし、それで怯える心の弱さは、今の智秋には無い。
「わかりました、椿先生!」
「新っちの師匠呼びといい、その先生ってーのといい、いまいち慣れないっすが……まあ良い返事っす。そうそう、夢幻門の中で解放する分には、神魔が暴れる心配も無いっすから、今のうちに存分に試すといいっすよん。というわけで休憩終わり、再開するっす!」
椿がパンと手を打つと、夢幻門の前に座り直す。疲労困憊な智秋と違い、こちらはまだまだ余裕がありそうだ。
「あ……はい、わかりました……」
夢幻門を見た智秋の声は、先と違って酷く暗い物となった。




