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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第五話 もう一人のブランク? 浜辺を襲う黒いギア
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5-終


「わっ! こ、ここが……新さんが鍛錬を積んだ場所……ですか?」


 八葉の力によって突然現れた、山の中に不自然に建つ豪邸を前に、荷物を背負い息を切らせた智秋が、手の甲で額の汗を拭いながら隣に立つ新と八葉を見る。


「ああ、そうだ。あの中に俺の師匠が居る。……四つ目の条件、覚えているか?」


「はい、新さんの師匠に一週間鍛えてもらって、合格を貰う事です!」


 先日、浜辺で交わした約束を復唱する智秋に、新が頷く。


「一週間の外泊は問題無いよな?」


「哲也さんが、内原総合科学主催の特別夏季講習だと家族には話してくれましたから……もちろん架空の、なんですけど……」


「うし、じゃあ行くか」


 新が一歩、屋敷へと踏み出す。その瞬間、まるで最初からそこに居たように、智秋の前に執事服の老人、三郎太が現れた。


「へぁっ!?」


 突然の登場に、智秋が素っ頓狂な声をあげながら後ろへ倒れる。素早くその背に腕を回し、支えるようにしながら三郎太が智秋の顔を穴が開くほど見つめた。


「あ……あの……」


「八葉様、新様、おはようございます。ところでこちらの少年は一体?」


「ん〜、何と言ったらいいものか……」


 頭を掻く新に代わって、隣の八葉が応える。


「名は長根智秋、新の新しい仲間だよ、三郎太。智秋が十分に戦えるよう、椿に鍛えてもらいに来た」


「なるほど……しかし、この少年。その身の奥にじゃを潜めているよう、私には見えますが……」


「ふむ、それも問題は無い事を私が保証しよう。この通り、椿の神域においてすら浄化されぬ程に封じられている……いや、封じられているからこそ浄化されぬ、か。ともかく、内なる神魔が勝手に動き出す事は無いと言えよう」


「……承知しました。失礼いたしました、智秋様。姫様は中でお待ちです。さあ、皆様どうぞ」


 三郎太が智秋を立たせ、一礼した後に右手で玄関を指し示す。その動きに合わせるように、大きな門が静かに開いた。


「うむ、では行くぞ、新、智秋」


「は、はい……あの、あの人が新さんのお師匠様なんですか?」


「ん?いや、違うぞ。あの人は三郎太さん、師匠……椿の世話をしている人だ。そうそう、勉強の事なら師匠より三郎太さんに見てもらうといい。一応、家族には勉強する事になってるんだからね」


「あはは……そうですね」


 新の言葉に智秋が苦笑いを浮かべる。

 三人が屋敷に上がり、八葉が襖を開けた瞬間、明るい声が部屋中に響いた。


「ヤッホー、姐さん、新っち! んで、そっちの子は……ふんふん、智秋……ともっちっすね! 事情は今、三郎太からザックリと聞いたっすよ!」


「と……ともっち?」


「智秋君、この方はここの主人であり俺の師匠だ。やあ、椿。既に聞いたみたいだけど、智秋君は今後俺と一緒に戦う事になる。一週間しかないけど、椿なりのやり方で戦い方を教えてやってほしい」


「ふんふん、なるほど。こっちは暇だし別に良いっすよ。そんじゃあ、早速始めるっすか?」


「ああ、それだけど……椿、ちょっとこっち来てくれるかな?」


 部屋の外に出ると、新が椿を手招きして呼ぶ。


「どうしたっすか、新っち? へへ、愛の告白なら、もう少しロマンチックな方が好みっすけど……」


「そうじゃなくてな……智秋君の事なんだけど……」


 声を落とし、椿へ囁くように話す新。それを聞いた椿は、腕を組みウーンと唸る。


「そうっすか。新っちはともっちに戦って欲しくはないんすねー。一応やってみるっすけど、本当に良いんすね?」


「ああ、死んだり怪我しない範囲で、とびきり厳しく頼む」


「……うん、了解っす! どのみち、一週間じゃあ詰め込むしかなかったっすけどね。よーし、ともっち、早速始めるっすよ!」


 部屋に戻り、三郎太へ腕を挙げ合図を送る椿。三郎太は頷き、次の瞬間には夢幻門が用意されていた。


「あれが……新さんのお師匠様……そうは見えないけどなぁ」


 夢幻門の前にドカリと座り込んだ椿に、智秋が独り言のように呟く。それは小さな呟きだったが、横に居た八葉にはしっかりと聞かれていた。


「ふん、お前もこれから神魔との戦いに身を投じるのであろう? なれば、相手の強さを見た目で測るな。まずはコレを心に留めておくといい」


「あ、す、すみません!」


「よい。さぁ、奴が待っているぞ。気を引き締めて、行ってこい!」


「は、はい!」


 ポンと八葉が智秋の背中を叩く。智秋は短く返事すると、椿に倣って夢幻門の前に座り込んだ。


「さて……椿、三郎太さん、後はお願いします」


「あれ? 新っち達は行っちゃうっすか?」


「ああ、俺達はこれからやる事があってね」


 新は椿に手を振ると、椿達に不安げな智秋を預け、神域の屋敷を後にした。



「やあ、よく来たね。そっちは無事に済んだのかい?」


 山を降りた新と八葉は、真っ直ぐに哲也の元を訪ねた。二人に冷えたアイスコーヒーを出しながら、哲也が笑いかける。


「ああ、心配いらない。……先に謝っておく。その……この間は悪かった」


 視線が哲也の頬に貼られた湿布で止まり、新が頭を下げた。

 そんな新を見ながら、哲也は笑みを崩さず首を振る。


「良いさ、言ったろう? こうなる事をわかった上で、僕は彼をグレイバーにしたって。それに、本来正しいのは君の方なんだ。目先の発見にとらわれ、誤ちを起こす僕を、君がこうしてしっかりと怒って教えてくれる。だからこそ科学者として道を踏み外さずに進めるんだ……むしろ感謝しているくらいさ」


「哲也……わかった。次同じ事があったら、遠慮せずにまた殴ってやるよ」


「ははは、多少は手加減して欲しいところだけどね。……さて、そろそろ本題に移ろうか。これを見てほしい」


 哲也が手元のリモコンを操作すると、照明が消え壁にスクリーンが落ちていく。

 スクリーンが落ちきると、そこに画像が投影された。映っているのは、先の戦闘記録から抜き出したケルピーの画像だ。


「問題は神魔ケルピーが手にしているコレだ」


 哲也がリモコンのボタンを押し、画像の一部を拡大する。ケルピーの手にある黒い腕輪状の物体が、画面一杯に現れる。


「俺の……いや、俺達の持っているギアによく似ているように見えるな」


「そう、これから説明するけど、その効果もギアによく似て……ああ、もちろん、僕はこのギアには無関係だよ、新」


「ふむ、お前が神魔と直接関わっていない事は、私の鼻でわかる。だが、例えば……そうだな、設計図や設計思想を盗まれた事はないか? つまりは盗作だ」


「う〜ん……どうだろう、少なくともギア関連のデータについては、僕オリジナルの強固なプロテクトがかかっている。侵入した痕跡すら残さずに、突破出来るハッカーが神魔側に居るとは考えにくいね」


「それじゃあ、結局このギアの出どころはわからないか」


「そうだね……とりあえず、この黒いギア……仮にブラックギアと呼ぶけれど、ブラックギアについては僕の方でも調べてみよう」


 哲也はそう言うと、映像を消し照明を付けた。


「現状判明しているブラックギアの特徴は、使用した神魔が黒く染まり強化される、内部から粘体で構成された一つ目を生み出し使役する、そして通常よりも増す魂への飢餓感……こんな所かな? さて、これから話す事はあくまで推察なんだけれど、おそらくブラックギアは、神魔にとって魂の外部タンクとでも言えるシステムを備えているようだね」


「外部タンク?」


「そう。本来、神魔は存在するだけで、魂を消費し、人を襲う事でこれを満たす。けれど、その身に蓄えられる魂の量には個体差があり、むやみやたらと襲えばいいものじゃない」


「ああ、そして俺の経験上、大食いであればあるほど強い神魔である可能性が高いな」


「つまり、内包する魂の量が、神魔の強さを大きく決める要素となる……そこで、ブラックギアだ」


「ふむ……自身の容量を超える魂を貯蔵し、それを使用する事で、能力を強化し限界を超えるギア、というわけか。ならば、被害者が急に増える事も、力を求めるあまり、通常ではしないであろう行動を取る事も、理解は出来る」


「その通り、さすがは八葉だね」


「そうか、だから外部タンクか。でも、それじゃあ、あの一つ目達は何なんだ?」


「そうだね……神魔自身を強化した残り。神魔の身体に留めきれない余剰分……簡単に言うとオーバーフローした物ではないかと、僕は考えているね。核である結晶を持たないから、神魔ほど強くはないけれど、逆に構成するエネルギーが切れるか、神魔からの供給が切れない限り活動を続ける……なかなか厄介な代物だね」


「ああ、そいつ達のせいで、随分苦労させられてるよ。アンリミテッドの出力なら、消す事は訳ないんだが、そうすると肝心の神魔を倒すエネルギーが不足するかもしれないからなぁ」


「うん、その件については、僕の方で一つ考えがある」


「考え?」


「なに、完成してからのお楽しみさ」


 人差し指を口に当て、哲也はニヤリと笑った。

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