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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第五話 もう一人のブランク? 浜辺を襲う黒いギア
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5-7

(くっ、何だ? 攻撃!? 真横から……水か!)


 吹き飛ぶ刹那、ブランクの脳内で思考が高速化する。自身を吹き飛ばした力が、高圧で放たれた水と判断した時には、既に受け身の体勢をとり、砂浜を転がりながら立ち上がった。


『新、無事か!?』


「ああ……しかし、こいつは……」


 ブランクが噴射された水の出元に視線を向けた。

 砂浜のそば、波打つ海の中から、先のそれとは比較にならない巨大さのヒドラが、ブランクを見下ろすように何本もの首を蠢かせている。


「ふっくっくっく……言ったはずだ」


 いつの間に起き上がったのか、ケルピーがヒドラを見上げながら不敵に笑う。


「私は、今までの私ではない、とね。魂を貯め込んだ至宝の力が、私の身体能力を上げるだけだとは……よもや、思ってはいないだろうな?」


「……海水を操っているのか」


「そうとも! どうする神魔狩り! どうするブランク! お前の敵は、今やこの大海そのものだぞ!!」


「そうでもないさ……チャージッ!」


 ブランクが両脚を輝かせ、再びケルピーへと突撃した……が、素早く伸びたヒドラの首が、二人の間に割って入り、ブランクへ牙を剥く。


「ちっ……ハァッ!!」


 ヒドラの首に向けて蹴りを放つブランク。サイズこそ違うものの、強度は先のヒドラと大差なく、けられた蛇の頭は小さな飛沫になって砕け散った。

 しかし、その間にもケルピーは後退しブランクと距離を取る。


「ふふん、なるほど……確かに私さえ倒してしまえば、それが一番早いだろう…………あまり私を舐めるな、小僧っ!!!」


 目を見開き、怒りを露わに吼えるケルピー。そのまま大きく仰け反り、胸が大きく膨らむ。


「ガァァァァッ!!」


 ケルピーが大きく口を開くと、空に向かって次々と四つの黒い粘液で出来た塊を吐き出した。


『新、また奴等だ』


 八葉の言葉通り塊達が泡立ち始め、一つ目の異形へと姿を変えていく。


「っ、ヒドラに一つ目供か……流石に厄介だな」


「ふはは、さあ再開ですっ。やれっ!」


「ギギッ!」


 ケルピーが挙げた腕を勢いよく振り下ろす。

 その合図を皮切りに、四体の一つ目がブランクに飛びかかってきた。


「チャージッ! フンッ!」


 一つ目達の攻撃を躱したブランクの四肢が、サラマンダーの炎を宿し赤熱化する。そのまま手近の一体に向けて、右手刀を振るう。


「ギッ!」


 袈裟斬りに分断された一つ目の身体が、次の瞬間激しく燃え上がる。ゴムの焼けるような嫌な臭いを振り撒きながら、二つの塊はドサリと地面に落ちた。


「よしっ、次っ!」


 仲間が倒れても一向に怯む様子すらない一つ目達を、ブランクが次々と倒し燃やしていく。

 表面を焼けただれさせながら、塊がモゾモゾと蠢いているが、炎の中では上手く動けないようだ。


『うむ、どうやら燃え続けている間は、奴らの再生を遅らせられそうだな』


「この前は、こいつの再生能力に苦労したからな。こうすれば……いや、そう上手くは行かなそうだ」


 満足そうな八葉に応えながら、突然ブランクが後ろへ大きく飛び退る。

 次の瞬間、ブランクの居た場所に滝のような水が降り注ぐ。何本もの首を束ねるように伸ばしたヒドラが攻撃してきたのだ。

 ……否、正確に言うならば、それは攻撃では無かった。

 ヒドラはそれぞれの口に、一つ目達の残骸を咥えると、いまだ燃える炎を気にもせずに丸呑みしていく。ヒドラの体内に呑み込まれ、流石のサラマンダーの炎も、酸欠と海水の質量の前に次々と消えていった。


「そうかそうか、コレは炎に弱かったのか」


 ヒドラの胴部分、首だけを外に出してケルピーが頷く。


「ありがとう、ブランク。良い事を教えてもらった。では、これならどうかな?」


 ケルピーが再度上空に向かって、黒い塊を吐き出した。しかし、塊は砂浜に落ちることなく、ヒドラの体内へと次々に落ち漂いだす。

 やがて、ヒドラ内部で変化が始まる。黒い塊が変形し触手を伸ばすと、他の塊達と次々に結びつき、更に一つ一つが大きく広がっていった。


「っ! おいおい、冗談だろ?」


 ヒドラを見上げたブランクが思わず息を呑む。

 ヒドラの全身を黒く染め上げ、今や海水の鎧を纏った、ヒドラ型の粘液体へと姿を変えた元一つ目達が、全身にギョロリとした目を生み出し、ブルブルと身震いしながら小さく縮んでいった。


『来るぞっ、新!』


「おう!」


 縮めたバネが戻るように、ヒドラの全身が大きく伸びる。その勢いのまま、上へ、左右へ、前方へ、無数の首が飛び出し、それぞれが独自の弧を描きながら、ブランクに向かう。


「はあああああっ!」


 空間を埋め尽くすようにして迫る巨大な黒い蛇達。ブランクは全力でそれらを躱し、いなし、軌道を変え、あるいは輝く拳や蹴りで粉砕し、何とか凌ぎきる。

 その奮闘を冷ややかに見下ろしながら、ケルピーが再びヒドラの身体を縮めさせた。


「ふん、流石は同胞達を屠り続けた神魔狩り。だが、いつまで保つかな!」


『どうする、新? あれを使うか?』


「アンリミテッドか! だが、ヒドラと一つ目の再生速度は厄介だ。それに、あの巨体、ケルピーの盾にされれば、消し尽くす前にこっちがガソリン切れになるぞ!」


『くっ、しかし、このままでは……』


「八葉、ひとまず議論は後だっ!!」


 縮んだヒドラの身体が大きく跳ねる。数瞬後に訪れる神魔の猛攻に備え、ブランクが拳に光を纏わせる……その時、


━━ドドドドドドドドッ!!━━


 ヒドラの首が次々に激しい爆発を起こし、力無く垂れていった。

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