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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第四話 紅蓮の記憶と鬼師匠
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4-終


「へへ、お優しい言葉だねぇ……だが、俺の答えはノーだ。ここでいくら俺を殺したところで、虹枝の会は……あの御方は止まらんよ。ハハハハハハ、ザマアミロだ! せいぜい無駄に足掻いて、のたうち回って、絶望しながら死ぬといい!」


 ゲラゲラと笑いながら、ブギーマンがブランクに何かを吐きかける。ブランクの顔を伝い落ちるそれは、血が混じったドス黒いブギーマンの唾液だ。


「そうか……わかった」


 汚液を拭いもせず、ブランクがブギーマンの体を放り投げる。ドサリと倒れたブギーマンを見下ろし、ブランクが構える。


「くっ……随分、物分かりがいいじゃないか」


「元々、俺はお前に……お前達神魔に何も期待していない。もちろん、お前の言う通り絶望してやるつもりなんて微塵もないさ。だからブギーマン、お前はせいぜい喰った子供達に心から詫びながら、今すぐとっとと消えやがれっ! エクセス・チャージッ!」


 ブランクの右脚が、かつてないほどの光を放ちスパークした。眩い光を纏ったまま、ブランクが天井近くまで跳躍する。


「これで終いだっ! バイツ・ストライクッ!!」


 ブランクの体が、完全にスパークする光に覆われた。そのまま、ブギーマン目掛けて速度を増しながら降下する。


「ちぃっ!」


 迫る光に舌打ちすると、ブギーマンがフラリと立ち上がり、後方へと大きく飛び退った。


「馬鹿めっ、そうそう簡単にやられは……なっ!?」


 しかし、完全に攻撃の軌道から外れ、躱したはずのブランクを包む光は、ブギーマンの動きに合わせ大きく向きを変え、空中で回避出来ないブギーマンへと向かう。

 光は巨大な狼の頭部を思わせる形に変形し、驚愕に目を見開くブギーマンを、そのあぎとで噛み砕くように光の中へと呑み込んだ。


「あぁぁぁぁっ!!」


 ブギーマンの絶叫が響いた瞬間、二人を中心に、爆発したかのように光が溢れる。その中からブランクが飛び出し、光が消失すると続いてブギーマンが力無く墜落した。

 地に落ちたブギーマンは、一言も発する間も無く瞬時に灰へと変わり崩れさる。ブランクはその灰の山を漁り、拳程の大きさを持つ、黒い結晶を拾いあげた。


「……ふぅ、終わったな。ディスコネクト」


 白い輝きの中から、分かれた新と八葉が現れる。新から結晶を受け取ると、八葉がそれを頬張りガリガリと噛み砕いた。


「はむ……ん……うむ、鍛錬の成果とは言え、実に見事だったぞ、新。それで、この後はどうする?」


「……この場所はこのまま、哲也に任せる。子供達を出来るだけ親元に返し……て……」


 言いかけたまま、ガクリと新の頭が下がる。そのままバタリと前のめりに倒れ伏した。


「ふむ……やはり、あれだけの力、消耗も相変わらずか。どうだ、動けるか?」


 倒れた新へと八葉が声をかけると、新の腕がピクリと動く。そうして、ゆっくりとだが起き上がるとフラつく脚で立ち上がる。


「ああ……いきなりで面食らったけど……何とか大丈夫だ」


「それもまた鍛錬の成果か。新はもう、あの頃とは比較にならない程強くなったのだな……とは言え、あまり無理はするな。そら、私の肩に掴まるといい」


 感慨深げにウンウンと頷く八葉。その肩に手を置き、新も力無く笑った。


「……この調子じゃあ、まだまだだけどな。哲也に連絡して引き上げるとしよう」



 かつてブギーマンが訪れた場所。この部屋の主人は、相変わらずアンティークチェアに深々と座り、外の景色を眺めている。

 そこに今、一人の男がブギーマン同様、突如現れた。落ち着いたこの部屋には似合わない、ボサボサの髪を伸ばし筋肉質な体をトレーニングウェアに包んだ、野生的で精力的な男だ。

 男はこちらを見ようともしない主人に、軽く手を挙げる。


「よう、見てきたぜ、大将」


「帰ったか、ブライ……それで?」


 ブライと呼ばれた男の言葉に、主人はようやく応えたが、視線は窓の外を眺めたままだ。

 そんな主人の態度を微塵も気にせず、ブライは首を振った。


「ダメだな、奴の寝ぐらには綺麗さっぱり何一つ残っていなかった……ありゃあ、只事じゃないな」


「ふむ……そうか。ブギーマンですら狩られたのか」


 何の感情も見せずポツリと主人が呟く。しかし、その言葉にブライは大いに驚愕した。


「狩られっ……って例の神魔狩りか!? いや、三下の神魔ならともかく、只の人間が奴を狩るなんて……」


「ならば相手は只の人間、では無いのだろう」


 疑うようなブライの言葉を、主人が詰まらなそうに切り捨てる。


「くっ……ならよう。俺達でそいつを、とっとと潰しちまうってわけにはいかないのか? 大将の言う神魔の選別ってーのもわかるんだが、ブギーマンに勝てる奴相手じゃあ、いくらなんでもキツイだろう?」


「……そうだな。それについては、私に考えがある。ブギーマンすら倒しうる存在の出現……そろそろ神魔全体を次のステージへと進める良い頃合いかもしれん」


 主人が右腕を挙げ、何かを掴むように虚空を握る。ブライは合点のいかない顔で頷いた。


「お、おう……良くわからんが、神魔狩りを潰すんだな?」


「結果的にはそうなるやもな……。ブライ、ひとまず他の二人を呼んでくるのだ。それから改めて話そうではないか」


 挙げた右手。その人差し指と中指を立て、背後のブライに向ける主人。ブライはガクリと頭を下げると、大袈裟に頭を振った。


「やれやれ、ブギーマンの次は俺が使いっ走りか。へいへい、そんじゃあ呼んできますわ」


 肩を竦め消えるブライ。主人は降ろした腕を組み、ゆったりと椅子に身を委ねた。

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