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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第四話 紅蓮の記憶と鬼師匠
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4-14


「くっ!」


 煙幕で視界を遮られた状態での不意打ち。しかしブランクはそれすらも瞬時に察知すると、紙一重で躱す。そのままブギーマンの腕を掻い潜るように接近すると、煙幕の向こう、ブギーマンの体があると思われる場所へ、右拳を打ち込む。


「……むっ?」


 だが、ブランクの拳は空を切った。想定外の結果に数瞬、ブランクの動きが止まる。その背をブギーマンの拳が襲った。


「っ! 反対からだとっ!?」


 いくらブランクギアが強化されたとは言え、ブギーマンもまた今まで倒してきた相手とは一線を画する相手だ。背中への一撃は大きくブランクをぐらつかせ、前のめりに倒れかかる。

 その突き出たブランクの顔面目掛け、前方からブギーマンの拳が再度放たれる。その拳を、何とか体を捻り躱すと、更に二本の腕が闇の向こうから伸び襲いかかった。


「ちっ、一体どういうトリックだっ?」


『焦るな! まずはこの煙をどうにかするぞ、新っ!』


 上段回し蹴りの要領で、二本の腕をまとめて蹴り上げ弾き叫ぶブランクを、八葉がピシャリと諌めた。ブランクはその言葉に冷静さを取り戻す。


「応っ! 煙なら……グリフォン・ソウルコネクトッ!」


 緑に輝く光の中、ブランクの背に一対の金属翼が現れる。その翼を大きく羽ばたかせると、周囲に猛烈な風が巻き上がった。


「むぅぅ……」


「そうか……それがお前の本当の姿か、ブギーマン!」


 強風に煙幕は散らされ、その向こうにブギーマンの姿がはっきりと現れた。

 ボロ布のような服から、元々あった物を含めて長く伸びうねる腕を八本も生やしている。

 被っていた布袋も無く、丸出しになり一本の毛も無くツルリとした頭部にはギョロリした目が二つ並び、どことなく頭足類を思わせた。


「その腕に顔、おまけに墨まで吐くとは……まるでタコだな」


『いや、脚も入れるなら十本、タコというよりイカだな』


 独り言のように呟くブランク。その言葉に八葉が細かい訂正を入れた。


「どちらにせよ、煙幕はもう効かないぞ。多方向からの攻撃もこれでネタバレだな……さあ、どうする、ブギーマン!」


「ククク……俺の煙幕を防いだ程度でいい気になるなよ、ブランク。俺の連撃、受け切れるものなら受けてみろっ!」


 触腕のように伸びた腕を蠢かし低く笑うと、ブギーマンがその腕を振るう。前後上下左右、様々な角度から、まるで別個の生物のように迫る攻撃を、ブランクは躱し、いなし、あるいは撃ち払い、防ぎ続ける。


「クフ、やるな! だが、これならどうだっ!」


 攻撃を躱し続け、グラリと体勢の崩れたブランクを、三本の腕を瞬時に螺旋状に絡めたブギーマンが笑う。さながら巨大な肉の槍と化した、ブギーマンの絡め束ねた腕が、ブランクの胸へと凄まじい勢いで伸びた。


「くっ!」


 ブランクは躱しきれないと判断すると、後方へと飛び退きながら両腕を交差させ防御する。

 そのガードへブギーマンの攻撃が直撃し、殺しきれなかった衝撃で、ブランクの体は更に大きく後方へと吹き飛んだ。


「つっ……」


『大丈夫か、新っ!』


「ああ、直撃は避けたし、こいつがクッションになったから、大した事は……ん?」


 ブギーマンが飛ばされた先、ぶつかり砕いたのは、この広い倉庫にいくつもある子供用のベッドの一つだ。ブランクは起き上がると、そのベッドに何かが寝かされている事に気付く。

 一見、それは少女を模した精巧な人形だった。

 開いた瞳はガラス製だろう。パジャマから伸びた腕には球体関節がある。

 しかし……その肌は、髪は、何よりブランクがぶつかった衝撃で上下に分断されてしまった胴体……ワタの詰まった断面は、どう見ても生物の組織そのものだった。


「おやおや、壊れちまったか。一応そいつは気に入ってたんだが……クフフ、まあ代わりは他にもあるがね」


 やって来たブギーマンは、固まるブランクを見てコキリと首を鳴らした。


「……おい、答えろ、ブギーマン……こいつ……この子は何だ」


「ククク、おいおい、見てわからないのか、ブランク。それは俺が喰った魂の容れ物、その再利用品だ。美味かった奴は、そうして処理した容れ物を残して、時折美味なる思い出に浸るのさ。クハハ」


 肩を揺らし笑うブギーマン。ブランクは少女の開きっぱなしだったガラスの瞳を優しく手で覆い、瞼を閉じてやると、ゆっくりと立ち上がる。


「なるほどな……つまり、貴様は子供を喰ったのか」


「ああ、喰ったさ。俺は仲間内でも食にはうるさくてね。やはり魂は子供、特に無垢な物に限るな。この世の不幸を知らず、暖かく育った子供を、攫って傷つけ苦しめ辱しめ……そうしてボロ雑巾のようにした魂が一番美味いなぁ! この場所には、そうして出来た再利用品が、それ以外にもいくつもあるぞ、ブランクッ!」


 心底愉快そうに、どこか誇らしげに語るブギーマン。ブランクはゆっくりと首を振ると、ブギーマンに向かって構える。


「わかった……もういい。その腐った口で、魂で、それ以上何も喋るな。今から貴様を……いや、貴様に喰われてしまった子供逹の魂、その一切合切を俺が……俺逹が楽にしてやる」


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