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ディスプレイに表示された名前を見て、新が応答ボタンを押す。聴こえてきたのは聞き慣れた女性の声だった。
「あら、繋がったわ、残念ね」
「おいおい、とても電話を掛けてきた奴の台詞とは思えないな、多聞」
電波の向こうから、情報屋多聞のクスリと笑う声が聞こえる。
「そうかしら? だって、新が出なければ、可愛い律きゅんに電話する口実になるじゃない? 律きゅんたら声だってエンジェルなんだものぉ」
多聞がンフウと荒い鼻息を漏らす。新は額に指を当て首を振ると、曖昧に応えた。
「あ〜、そうか……うん、それで要件はなんだ?」
「ふふ、そうね。今連絡したのは他でも無いわ。貴方に調査を依頼された、例の組織についてよ」
「例の……それって、虹え」
虹枝の会、思わずそう言いかけた新の言葉を、多聞が遮る。
「しー、ダメよ、新。私の部屋以外では、通話だとしても警戒するべきよ」
「あ、ああ、悪い。それでアレについて、何かわかったのか?」
「まず、例の組織と同名、または近い名前の組織なんだけれど……意外な事に結構な数が見つかったの」
「ん? そんなにあったのか?」
「そう、子供の学習会や老人ケア団体なんかもあるわね。全く関係ない組織の場合、おそらくは蓬莱の玉の枝辺りが名前の由来なのだろうけれど……」
「蓬莱の玉の枝?」
「あら、新は知らないかしら? 竹取物語に出てくる宝物よ。……まあ、それは今はどうでもいいわ。それらの内どれが例のアレと関係のある組織なのか……もしかしたら関係している組織が複数の場合も考えられるけれど、兎に角一つ一つ慎重に裏取りしている段階ね」
「ふむ、それで? お前の事だ、途中経過を伝える為だけに、わざわざ連絡してきた訳ではあるまい?」
新の傍から身体を伸ばし、携帯電話に向かって八葉が話しかける。先程の哲也との通話もそうだが、八葉の耳には問題無く通話内容が聴こえていたようだ。
「あら? 八葉ちゃんもそこに居たのね。ふふ、相変わらず仲良しね、貴方達。勿論、今回電話したのは、八葉ちゃんの言う通り、調査の途中で貴方達に伝えておくべき事があったからよ」
コホンと軽く咳払いすると、多聞が続ける。
「とある場所にある一件の貸し倉庫を、例の組織と同名の会社が契約して借りているわ。同名の会社と言ってもペーパーカンパニー……実在していない組織ね。そして、周期的にこの倉庫へ入り利用していると思われる者が一人……おそらく貴方が言った例の男と同一の、ボロ布を纏った不気味な男よ」
「っ!」
新が息を呑む。その脳裏にはブギーマンの不気味な姿が鮮明に浮かんだ。
「いくら私の部下達でも……流石に、内部で何が行われているか、そこまでは踏み込めないわ。それでも、知っておいた方が良かったでしょう?」
「ああ、助かる。それで、その貸し倉庫はどこに?」
「詳しい場所は私の部屋で。周期通りなら、男が現れるのは、今週金曜の夜ね」
「金曜の夜……四日後か……わかった。四日後、いつもの時間にそちらに向かう。構わないか?」
「ええ、いいわ。それじゃあ、新、八葉ちゃん、待っているわね」
それだけ言うと、プツリと多聞との通話が切れた。
新は携帯電話をしまうと、左手を掲げブランクへと変身する。更に八葉が身を寄せ憑依合身すると、ブランクは椿達の待つ屋敷へと駆け出した。
『四日、いや正味三日か……もう少し猶予が欲しかった所だが……いけるか?』
ブランクの内部で八葉が新に問いかける。
「なに、キッカケは十分。後は何が何でも仕上げてみせるさっ!」
『ふむ、意気は良し。先の疲労も、三郎太の薬湯で大分癒えたようだ。あれを飲みながらならば、多少の無理も効くだろう』
八葉にそう言われて新は気付く。ブランクとなった今は当然だが、確かに哲也や多聞との通話中も、夢幻門から出た直後のような気怠さは随分と和らいでいた。
「なるほど、さすが神様の薬って感じだな。欲を言えば、味もそれだけ良いといいんだけどなぁ……」
『ふふん、良薬口に苦しだ、そうボヤくな。さあ、もう着くぞ』
「ああ、ディスコネクト」
八葉の言葉通り、屋敷はもう目の前だった。ブランクが白い光を放ち、変身を解いた新と八葉が、家へと上がる。
「お、帰ってきたっすね。もういいんっすか?」
出た時と変わらず、ちゃぶ台の向こうから座ったまま椿が腕を振る。
「ああ、用事は済んだよ。それでさ椿、悪いんだけれど、さっきの鍛錬、後三日で形にしたいんだ……頼めるか?」
「こっちは全然構わないっすけど、新っちはいいっすか? 大分キツイ事になるっすよ?」
「構わない。椿が思う通りに俺をシゴいてくれ」
「了解っす! ん、三郎太の薬湯で結構回復したみたいっすね。そんじゃあ、早速始めるっすよ!」
嬉しそうに笑う椿の声に呼応して、卓上に置かれた夢幻門が再び光を灯す。新も頷き、夢幻門へ手を伸ばした。




